事故の過失割合の決め方や示談交渉のコツを詳しく解説

事故の過失割合の決め方や示談交渉のコツを詳しく解説

交通事故の損害賠償額に影響を与えるのが、事故当事者の過失割合(責任の度合い)です。どのように過失割合が決まるのか、不安に感じている方もおられるのではないでしょうか。

被害者にも過失がある場合、過失相殺という考え方によって損害賠償金が減額されます。過失割合によって請求できる損害賠償金の金額が変わりますので、示談交渉においては、事故の相手方の言い分を鵜呑みにすることなく、しっかりと適切な過失割合を主張することが大切です。

この記事では、交通事故の過失割合の決め方や、示談交渉のポイント、過失割合に不満がある場合の対処法をご紹介します。

琥珀法律事務所の代表弁護士 川浪芳聖の顔写真

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

交通事故における過失割合とは?

交通事故の損害賠償は、「損害の公平な分担」という民法の概念に基づいて行われます。損害の公平な分担とは、加害者だけでなく被害者にも事故の責任がある場合、その割合に応じて損害賠償金を減額する考え方です。

参考:『民法第722条2項』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

交通事故における当事者双方の責任の割合のことを過失割合といいます。ここでは過失割合の決め方や、損害賠償金が減額されるケースについて解説します。

過失割合は責任の割合を示した数値

過失割合とは、交通事故の加害者と被害者の各人にどの程度の責任があるかを示す指標です。

例えば、加害者に100%責任がある場合、加害者と被害者の過失割合は100:0となります。一方、被害者にも過失がある場合は、80:20や70:30、50:50など、双方の責任の度合いに応じて過失割合が決まります。

この過失割合は、交通事故の損害賠償額や自賠責保険金の支払額に影響しますので、過失割合をめぐって相手方と争いになるケースがよくあります。

過失相殺により損害賠償金が減るケースもある

被害者の過失が認められると、過失割合に応じて損害賠償金が減額されます。その根拠は、民法第722条2項が定める「過失相殺」という考え方です。

“被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。”

※「定めなければならない」ではなく、「定めることができる」と規定されているのは、被害者の過失を認定しても、これを考慮するかどうかは裁判所の裁量に委ねられていること(裁量減額主義)を意味します。

もっとも、裁判外における示談交渉では、ほぼ過失割合に応じた賠償額の算定が行われており、当事者双方に過失があるのに過失相殺が考慮されないケースは珍しいのが現状です。

例えば、交通事故によって被害者に100万円の損害が発生したと仮定します。この場合、加害者と被害者の過失割合が80:20だとすると、被害者が受け取ることのできる損害賠償金は、過失相殺によって100万円から80万円に減額されます。また、この場合に、加害者にも100万円の損害が生じているときは、被害者は加害者に生じた損害のうち20%に相当する20万円を加害者に賠償しなければなりません。

被害者の請求額 100万円×(1-0.2)=80万円

被害者の負担額 100万円×(1-0.8)=20万円

  • 結局、被害者が得られる賠償金は、60万円(80万円-20万円)ということになります。

参考:『民法第722条2項』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

過失割合の決め方

示談交渉においては、当事者同士の話し合いによって過失割合が決定されます。加害者側と被害者側が交渉を重ね、双方が合意に至った場合に過失割合がひとまず確定することになります。

  • 裁判においては、裁判官によって過失割合が決定されます。

交渉が始まった段階では、まず、加害者側の保険会社から過失割合を提示されるのが一般的です。ただし、保険会社が提示した過失割合がそのまま採用されるわけではありませんので、保険会社の提示に不服がある場合には、過去の裁判例や事故の状況などを調査・検討して、自らが妥当と考える過失割合を保険会社に主張できます。

過失割合を決めるタイミング

過失割合を決定するタイミングは、基本的に示談交渉開始後になります。そして、示談交渉は、一般的に、相手方保険会社から連絡があった時から始まります。

ただし、人身事故の場合には、治療が終了するか症状固定・後遺障害の認定に至らない限り、損害賠償金の金額を確定できませんので、具体的な交渉がなされないままに時間が経過することもあります。一方、物損事故の場合には、人身事故と異なり、車両の修理費用や代車費用といった損害の算定に時間を要しませんので(レーシングカーやヴィンテージ化―などの特殊な車両を除きます。)、比較的早期に過失割合や損害賠償金の金額などについて話し合いが行われるといえます。

  1. 事故の発生
  2. 警察や保険会社への報告
  3. 示談交渉開始
  4. 過失割合の決定
  5. 損害賠償金、慰謝料の決定

このように、示談交渉開始後に、当事者双方がそれぞれ過失割合を検討し、慰謝料や損害賠償金を含めて話し合う流れになります。

事故の過失割合について、お気軽に弁護士にご相談いただけます!

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

事故の過失割合を決める流れ

交通事故の過失割合は、以下の3つのステップに沿って検討されます。

  1. 事故発生の状況を確認する
  2. 過去の裁判例・事故事例の中から類似する事故類型を選ぶ
  3. 最終的な過失割合を決定する

まずは大まかな事故状況を踏まえて基本となる過失割合(基本過失割合)を決定し、その後、事故の個別事情を考慮して過失割合を修正していきます。

事故発生の状況を確認する

事故発生時の状況について、当事者双方が認識のすり合わせを行う必要があります。

事故状況に関する当事者の認識が食い違うと、過失割合をめぐる紛争の原因になります。この場合、ドライブレコーダーの映像や車の損傷箇所、警察が作成した実況見分調書、物損事故報告書などを参照しつつ、事故発生時の状況や衝突場所、事故原因(一時停止の不履行、速度違反など)を明らかにしていくことになります。

過去の裁判例・事故事例の中から類似する事故類型を選ぶ

次に過去の裁判例・事故事例の中から、類似している事故類型を探します。その際に最も参照されるのが、「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)と毎年発刊される「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編)(「赤い本」と呼ばれています。)という書籍です。

これらの書籍においては、様々な事故状況を想定してケース分けがなされており、ケースごとに基本過失割合が記載されていますので、発生した事故がどのケースに当てはまるのか、もしくは、類似しているのかを検討して、基本過失割合を探っていくことになります。

最終的な過失割合を決定する

基本過失割合の目途がついたら、個別具体的な事情を考慮して修正を施し、最終的な過失割合を決定します。個別具体的な事情とは、以下のような事情を指します。

  • 一時停止違反があった
  • 信号無視があった
  • 速度違反があった
  • 徐行義務違反があった
  • ウインカーを出していなかった
  • 事故現場は見通しの悪い交差点だった
  • 事故発生の時間帯は夜間だった

過失割合の修正要素について分からないことがある場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

【パターン別】事故の過失割合の決め方

事故の過失割合の決め方や示談交渉のコツを詳しく解説

「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)では、事故類型ごとに基本となる過失割合を設定しています。

  • 歩行者と自動車(車・バイク)との事故
  • 歩行者と自転車との事故
  • 車同士の事故
  • 車とバイクの事故
  • 自転車と自動車(車・バイク)の事故
  • 高速道路上の事故
  • 駐車場内の事故

ここでは、事故類型ごとに過失割合の認定にあたって考慮される特徴を説明します。

【歩行者と自動車の事故】

歩行者と自動車との事故では、歩行者が急に道路上に飛び出してきたような場合を除き、基本的に歩行者が被害者となるケースが多いといえます。歩行者に生じた損害のうち、どの程度減額するのが損害の公平な分担という理念に合致するかという観点から、過失割合が基準化されています。

【歩行者と自転車の事故】

歩行者と自転車との事故においても、歩行者と自動車との事故と同様に、基本的に歩行者が被害者となるケースが多く、損害の公平な分担という理念に照らして過失割合が基準化されています。

【車同士の事故】

車同士の事故では、停車中に後方から追突された場合や信号無視があった場合等を除いて、加害者・被害者双方に過失が認められるケースが一般的です。この場合の過失割合は、事故の発生場所(例えば、幹線道路上、見通しがきく交差点、信号機の有無)や事故発生時の運転状況(右折禁止に違反した、徐行しなかた、一時停止しなかった、ウインカーによる合図がなかった等)などを考慮して基準化されています。

【車とバイクの事故】

車同士の事故における過失割合基準がバイクの特殊性を考慮して、バイクに有利なように修正されています。なお、バイクと車の事故では、右直事故(青信号の交差点に直進してきたバイクと対向車線から右折してきた車の事故)が比較的多く、この場合の基本的な過失割合は、バイク:自動車=15:85とされています。

【自転車と自動車(車・バイク)の事故】

自転車は、道路交通法第2条1項11号にいう「軽車両」に該当し、同法第2条1項8号の「車両」(自動車など)として扱われています。ただし、自転車に特有の規制があり(例えば、自転車は路側帯の通行が可能です。)、また、車やバイクと異なり、免許不要で児童も運転できるといった特殊性もありますので、過失割合の基準は自転車に有利なように修正されています。

【高速道路上の事故】

高速道路は、一般道路とは異なり、自動車のみの通行が予定され、一般道路よりも高速での走行が許容されています。また、一般道路の特例として、最低速度を維持する義務(道路交通法第75条の4)、横断・転回・後退の禁止(道路交通法第75条の5)といった規定が存在します。

これらの特殊性(高速道路と一般道路の違い)に鑑みて、高速道路上の事故については、一般道路上の事故とは別に過失割合が基準化されています。

【駐車場内の事故】

駐車場内の事故についても、駐車場の特殊性を踏まえて、過失割合が基準化されています。

交通事故に関するお悩みは
お電話・フォームから簡単にご相談いただけます!

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

事故の過失割合を決めるときの示談交渉のコツ

示談交渉において、交通事故の過失割合は、話し合いによって決まります。示談交渉の進め方によっては、基本過失割合よりも有利な過失割合が認定されるケースもあります。

過失割合について話し合うときのポイントは以下の3点です。

  • 相手方(保険会社)の主張する過失割合を過信しない
  • 事故状況を示す証拠を残して準備しておく
  • 過失割合について弁護士に相談する

相手方(保険会社)の主張する過失割合を過信しない

1つ目のポイントは、相手方又は相手方保険会社から提示された過失割合をそのまま鵜呑みにしないことです。

相手方が相手方にとって有利なように過失割合を主張してくることや誤った事故状況の認識(誤解)に基づいて過失割合を主張してくることはしばしば見受けられるところです。また、相手方の保険会社も、相手方から聴取した事故状況が正しいことを前提として過失割合を算定・主張することがあります。さらには、事故における個別具体的な事情が過失割合にどこまで正確に反映されているのか、疑問に思えるケースもあります。

そのため、相手方やその保険会社から提示された過失割合が適切とは限りません。過失割合に納得がいかない場合や疑問に思う場合は、ご自身でも過失割合を算定してみることをおすすめします。

事故状況を示す証拠を残して準備しておく

2つ目のポイントは、事故状況を判断する際に参考となるような証拠を確保しておくことです。

交通事故の過失割合は、事故状況に基づいて決定した基本過失割合に修正を加えていく形式で決まります。事故状況に関する証拠が揃っていればいるほどに、適切な過失割合を算定しやすくなります。

交通事故に遭ったら、事故直後の写真やドライブレコーダーの映像データ、携帯電話による録画データなどの証拠を確保しておきましょう。目撃者がいる場合は、その連絡先を聞いておくと第三者による証言を得られる可能性もあります。

過失割合について弁護士に相談する

3つ目のポイントは、交通事故に詳しい弁護士に相談することです。

過失割合を正しく判断するためには、豊富な経験に裏付けされた民事交通訴訟に関する専門的な知識が必要です。また、多くの方が過失割合の算定において参照とされる「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編)などの書籍をお持ちでないでしょう。

そのため、過失割合について分からないことがある場合には、交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

事故の過失割合に不満があるときは?

示談交渉では、双方の過失割合をめぐって紛争に発展するケースも珍しくありません。相手方から提示された過失割合、ひいては損害賠償額に納得がいかない場合は、安易にそのまま受け入れるのではなく、以下の4つの方法で対処しましょう。

  • 相手としっかり交渉する
  • 裁判所での調停を検討する
  • ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用する
  • 弁護士に依頼する

相手としっかり交渉する

まずはインターネット等を活用して、可能な範囲で過失割合を調べ、相手方の保険会社としっかり交渉しましょう。少額の損害賠償を請求する場合やドライブレコーダー等によって事故発生状況が明確である場合には、主張が認められる可能性があります。

ただし、損害賠償額が大きい場合(怪我の程度が大きい場合)や双方に過失が認められることは明らかであるものの、事故発生状況に争いがある場合には、保険会社の担当者を説得することは容易ではありません。過去の裁判例等を参照にしつつ、法的な根拠に基づいて過失割合を主張していく必要があります。

裁判所での調停を検討する

過失割合について争いがあり、当事者双方の主張が平行線のままである場合は、示談交渉を打ち切って、裁判所での調停を検討してもよいと思います。

裁判所での調停は、裁判(訴訟)と違って、双方の間に調停委員が入り、話し合いによる問題解決を目指す手続きです。第三者の目線から、客観的に過失割合を検討してもらえます。

また、裁判所での調停では、基本的に加害者・被害者が直接顔を合わせる必要がないというメリットもあります。具体的には、調停は、加害者・被害者の一方と調停委員との間で順に話し合いが進められる形式で行われます(話し合いが行われている間、もう一方の当事者は別室で待機することになります)。

ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用する

裁判所での調停と同様に話し合いで解決を目指す方法として、ADR(裁判外紛争解決手続)があります。

ADRとは、公正中立な第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決を図る手続です。裁判所での調停と違って、民間のADR機関が話し合いを仲介します。また、裁判所の調停と違って、費用もかかりません。

ただし、原則として加害者・被害者・ADR機関の担当者の3者が同席して話し合うことになります。

交通事故問題を扱う主なADR機関として、「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」と「公益財団法人交通事故紛争処理センター」の2つがあり、どちらも交通事故に詳しい第三者(弁護士など)が仲介します。そのため、この手続を活用することも一つの有効な解決方法といえます。

参考:『法的トラブル解決には、「ADR(裁判外紛争解決手続)」』
URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/2.html

弁護士に依頼する

提示された過失割合に不満があるものの、ご自身で調べる時間がない・自信がないという方については、示談交渉を弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、過失割合についての話し合いだけでなく、慰謝料の増額交渉や、相手方との裁判に発展した時の対応なども一任できます。

保険会社との示談交渉は、時間や労力がかかるだけでなく、精神的なストレスを感じることもあります。仕事や子育てなどで忙しい方や、示談交渉に不安を感じる方は、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。特に、ご自身の任意保険に弁護士特約が付帯されている場合は、弁護士費用を気にしなくてよいので、積極的に弁護士に相談されるのがよいと思います。

まとめ

交通事故の過失割合は、損害賠償額や自賠責保険金の支払額などに影響する重要なポイントですので、提示された過失割合に納得がいかない場合は、慎重に対応するように心がけましょう。

過失割合に関してお悩みの場合には、弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。法的根拠に基づいて適切な過失割合を主張し、解決をサポートいたします。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
法律のお悩み全般をご相談いただけます。

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】