自動車の任意保険には弁護士特約を付けることができますが、オプション扱いなので「必要ない」と考えて、弁護士特約を付けない方が一定数おられると思います。
しかし、弁護士特約は、もらい事故の場合や加害者が無保険だった場合など、さまざまなケースで役に立つものです。補償内容をよく確認した上で加入を検討しましょう。
この記事では、弁護士特約の補償内容や、弁護士特約が必要になるケースと必要ないケース、メリット・デメリットについてご紹介します。
- 弁護士特約は記名被保険者だけでなく、家族や契約車両の保有者までカバーできる
- 弁護士特約の補償金額の多くは上限300万円
- 弁護士特約を付加する際は補償の重複に注意

弁護士特約の補償内容は?本当に必要ない?

弁護士特約とは、契約車両で交通事故が発生した際、相手方に損害賠償請求をするために依頼した弁護士に支払う費用を保険会社が補償してくれる特約のことです。
弁護士への依頼には着手金や報酬金、日当、諸費用(実費)などがかかります。弁護士特約に加入していれば、これらの費用の全てまたは一部をカバーすることができます。
ここでは、弁護士特約の適用範囲や、対応している事故の種類、補償金額について説明します。
弁護士特約の適用範囲
弁護士特約が適用される範囲は保険商品やプランなどによって異なりますが、特約そのものは契約車両に付加されますので、保険の契約者以外の人も契約車両を運転している限り、適用範囲に含まれるケースがほとんどです。
一般的な弁護士特約の適用範囲は以下のとおりです。
- 記名被保険者
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者やその配偶者の同居の親族
- 記名被保険者やその配偶者の別居の未婚の子
- 契約車両に乗車している人
- 契約車両の所有者
なお、上記は損害賠償請求にかかる弁護士費用等の補償を受けられる範囲で、刑事事件(契約車両で対人事故を発生させた場合等)の場合の一般的な適用範囲は以下のようになります。
- 記名被保険者
- 自動車または原動機付自転車を使用または管理している人のうち、以下いずれかに該当する人
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者やその配偶者の同居親族
- 記名被保険者やその配偶者の別居の未婚の子
- 記名被保険者の承諾を得て契約車両を使用または管理している人
弁護士特約が対応している事故の種類
弁護士特約が対応している事故の種類は、自動車型に加入しているか、自動車型+日常生活型に加入しているかによって異なります。
自動車型の場合、契約車両が起こした交通事故の損害賠償請求や刑事事件に対応しています。例えば、「契約車両と他の車両で接触事故を起こした」、「契約車両が自転車や人をはねてしまった」、「契約車両で建物に衝突した」などのケースで利用することができます。
一方、自動車型+日常生活型に加入している場合、契約車両で起こした交通事故に加え、日常生活における身近な事故やトラブルも適用対象です。例えば、「歩行中にひったくり被害に遭い、その後に犯人が捕まった」、「走行してきた自転車にはねられてけがをした」、「駐輪場に停めていた自転車が壊された」といったトラブルの解決のために、弁護士に依頼した場合の費用を補填してもらえます。
弁護士特約の補償金額
弁護士特約で補償される金額は、無制限ではなく、一定の上限が設けられています。一般的に、弁護士に法律相談した場合の費用については、1事故かつ1被保険者につき10万円。弁護士費用については300万円が上限とされています。上限を超えた分は自己負担となるため注意しましょう。
なお、保険会社によって上限金額に差がある場合があるので、弁護士特約を付加する場合は補償金額についても事前にチェックしておきましょう。
弁護士特約が必要になるケース
弁護士特約は、被害の規模の大小にかかわらず、幅広い交通事故に利用できる便利な特約です。
また、もらい事故や加害者が無保険だった場合にも役立つ特約です。万一のときに備えたい場合は弁護士特約の付加した方が安心といえます。
ここでは、弁護士特約が必要になる主なケースを4つご紹介します。
もらい事故が発生した場合
もらい事故とは、被害者側に過失のない交通事故のことです。例えば、駐車場に停めていた車にぶつけられた場合や、信号待ちしていたら後続車に追突された場合は、加害者側に100%非があるとみなされます。
このようなもらい事故の場合、被害者側が加入している任意保険の示談代行サービスを利用することはできず、被害者自らが加害者側と示談交渉しなければなりません。
しかし、示談交渉は身体的にも精神的にも負担がかかるやり取りですので、示談代行サービスを利用できないもらい事故の場合には、弁護士に示談交渉を一任することをお勧めします。
弁護士特約を利用すれば経済的な負担を軽減できますので、もらい事故での示談交渉を依頼するときに役立つでしょう。
被害が小さい事故の場合
弁護士に依頼すると、着手金や報酬金、日当、法律相談料、実費などさまざまな費用がかかります。
このうち、着手金や報酬金は、賠償請求額に一定の割合を乗じて計算されるケースがほとんどです(ただし、軽微な物損事故など、賠償請求額が低廉である場合に備えて、着手金と報酬金のいずれについても、最低額を設けている弁護士が多いといえます。)。しかし、賠償請求額が少ない被害の軽微な事故の場合、賠償額よりも弁護士費用の方が高額となるリスク(費用倒れが発生するリスク)は高くなってしまいます。
弁護士特約を利用すれば、弁護士費用の多くを任意保険会社に補償してもらえるので、被害が小さな事故でも費用倒れを防止できるでしょう。
被害が大きい事故の場合
交通事故の被害が大きい場合、事故の相手方に請求できる賠償額も大きくなるので、示談交渉において適切に対応すれば、高額の賠償額を受け取ることが可能です。
特に、慰謝料に関しては、計算基準が最も高い弁護士基準を適用することで、自賠責保険基準や任意保険基準を適用した場合に比べると賠償額の増額を見込めます。
弁護士特約を利用して弁護士費用を補償してもらえば、被害者の方の手元に残る金額も多くなるので、大けがや後遺障害、死亡など被害の大きな事故に遭った場合は弁護士特約があると便利です。
加害者が保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険からしか補償を受けることはできません。
自賠責保険の補償は必要最低限であり、例えば、傷害による損害は120万円が上限です。超過分は加害者自らが負担することになりますが、加害者が働いておらず、預貯金や不動産といった財産も有していない場合(加害者の資力が乏しい場合)、十分な補償を期待できないこともあります。場合によっては弁護士費用が確保(回収)できる賠償額を上回ってしまう可能性もあるでしょう。
弁護士特約があれば、一般的に300万円まで弁護士費用が補償されるので、費用倒れになるリスクは低いといえます。
弁護士特約が必要ないケース
ここまで弁護士特約が必要なケースを紹介してきましたが、場合によっては弁護士特約が必要ないこともあります。
特に、他の損害保険に加入している場合、補償が重複して逆に損をしてしまうことがあるので注意しましょう。
ここでは、任意保険の弁護士特約が必要ないケースを2つご紹介します。
すでに別の保険で特約を付けている場合
弁護士特約は自動車の任意保険にだけ付加できるものではなく、火災保険や傷害保険、生命保険など他の保険にも付加できる場合があります。
1度の事故に利用できる弁護士特約は1つだけですので、他の保険で弁護士特約を付けている場合は、わざわざ任意保険で特約を付ける必要はないでしょう。
ただし、弁護士特約の適用範囲は保険商品によって異なります。適用範囲が大きく重複している場合はどちらか片方で特約を付加すれば足りるといえますが、適用範囲に違いがある場合はニーズや目的を考慮し、両方契約するのも一つの方法です。
家族の保険に特約が付いている場合
前述のとおり、弁護士特約の補償範囲は広く、記名被保険者だけでなく、その配偶者や記名被保険者の同居の親族も補償対象です。
また、未婚であれば別居の子も補償対象となるので、一つの契約で家族をカバーできるところが特徴です。弁護士特約はオプション扱いであり、付加するには別途特約保険料を払わなければなりませんが、一つの契約で広い範囲をカバーできるのは大きなメリットといえます。
なお、家族以外でも、契約車両に同乗していた人や所有者も補償対象に含まれることがあります。
弁護士特約を付ける4つのメリット
弁護士特約を付けると、弁護士費用を節約できるのはもちろん、自分で弁護士を選べる、慰謝料の増額を見込める、家族全員をカバーできるなど、さまざまなメリットがあります。
いざというときのコスト節約や安心につながるため、もしもの場合に備えたい方は弁護士特約の付加を検討しましょう。
ここでは弁護士特約を付加するメリットを4つご紹介します。
弁護士費用を節約できる
弁護士特約を付加する最大のメリットは、弁護士費用を節約できるところです。一般的に、法律相談料は10万円まで、弁護士費用は300万円まで補償されるので、着手金や報酬金、実費などの支払い負担を軽減できます。
特に、着手金は弁護士に依頼した時点で支払わなければならず、事件が解決したか否かにかかわらず請求されるものですので、依頼者にとって負担の大きい費用といえます。弁護士特約があれば、着手金も含めて補償の対象になるので、経済的な負担をかけずに弁護士に依頼するこができます。この点は大きな利点です。
自分で弁護士を選べる
弁護士特約を利用すると、その保険会社が提携している弁護士や、保険会社から紹介される弁護士にしか依頼できないのではないかと思う方も多いでしょう。
しかし、実際には依頼できる弁護士に制限はなく、自身で任意に弁護士を撰んで依頼することが可能です。弁護士の実績や得意分野は弁護士事務所によって差がある上に、依頼者との相性問題もあるので、任意で弁護士を選べることも大きな利点でしょう。
特に、得意分野は重要な要素の一つで、交通事故の示談交渉を依頼するのなら、交通事故の補償問題について豊富な知識と実績を持つ弁護士に依頼することが大切です。
慰謝料の増額を期待できる
前述したとおり、慰謝料の算定基準には自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあります。
計算方法は、自賠責保険基準<任意保険基準<弁護士基準の順で被害者に有利となっており、同じ事故であっても自賠責保険基準と弁護士基準では慰謝料の額に大きな差が出ることが多いといえます。
過去の裁判例等(交通賠償実務)を基に慰謝料を計算する弁護士基準なら、適切な金額の慰謝料請求を期待できるので、十分な賠償を受けたいのなら弁護士特約を利用して弁護士に依頼した方がよいでしょう。
家族をカバーできる
弁護士特約は補償範囲が広いので、一般的に、記名被保険者だけでなく、配偶者や記名被保険者の同居の親族も補償対象に含まれます。
また、未婚であれば別居の子も補償対象となるので、一つの契約で家族をカバーできるところが特徴です。弁護士特約はオプション扱いであり、付加するには別途特約保険料を払わなければなりませんが、一つの契約で広い範囲をカバーできるのは大きなメリットといえます。
なお、家族以外でも、契約車両に同乗していた人や所有者も補償対象に含まれることがあります。
弁護士特約を付ける2つのデメリット
上記のように、複数のメリットがある弁護士特約ですが、一方でいくつか注意しなければならない点もあります。
特に注意したいのは、補償対象外の事故に見舞われたケースです。補償を前提に弁護士に依頼したら、費用の補填を受けられなかったというトラブルが発生する可能性があるので、弁護士特約を利用する場合には、保険会社に対して、利用が可能かどうかについて確認するようにしましょう。
ここでは、弁護士特約を付ける場合に注意したい2つのデメリットをご紹介します。
保険料が高くなってしまう
弁護士特約は任意で付けるものなので、その分、保険料が割高になります。
保険料は、保険会社や補償される事故の種類(自動車型か、自動車型+日常生活型か)によって異なりますが、一般的に年間の保険料は2,000円程度です。
ただし、弁護士特約があれば、高額になりがちな弁護士費用を300万円まで補償してもらえることが多いので、もしもの場合の恩恵の大きさを考えると、コストパフォーマンスの高い特約と評価できます。
補償対象外の事故もある
弁護士特約は幅広い事故を補償できますが、一方で補償対象外となる事故もいくつかあります。
補償対象外となるのは、次のような事例です。
- 被保険者の故意によって発生した事故
- 無免許運転や飲酒運転、薬物使用時に発生した事故
- 闘争行為や自殺行為、犯罪行為によって発生した事故
- 自然災害(地震、噴火、津波、台風など)
- 戦争や革命、内乱等
- 事故の相手方が被保険者の家族
- 自動車やバイク以外で起こした事故
他にも、保険会社によっては営業車などの事業用車両で起こした事故は補償対象外になる場合があります。補償対象外となるケースは保険約款に記載されていますので、事前に確認しておきましょう。
まとめ
弁護士特約は任意のオプションなので、必要ないと思う方も多いのですが、メリットの大きい特約といえます。弁護士を利用すれば、契約車両に関する事故で弁護士を依頼した場合の費用を補償してもらえます。
弁護士費用は、着手金や報酬金、日当、諸費用などでかなりの金額に上ることもあるため、もしもの場合の弁護士費用に備えたい場合は弁護士特約の付加を検討することをおすすめします。
特に、もらい事故や相手が無保険の事故などでは、弁護士特約の大きな恩恵を受けることができます
琥珀法律事務所では、これまで培ってきた豊富な交通事故補償問題の実績や経験を基に、事案ごとの個別事情に応じた最善の解決を目指します。交通事故の示談交渉や補償問題でお困りの方は、ぜひ弊所までお気軽にご相談ください。

【経歴】
2008年 | 弁護士登録 |
2010年 | 主に労働事件を扱う法律事務所に入所 |
2011年 | 刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる |
2012年 | 琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当 |
2014年 | 青梅市役所法律相談担当 |
2015年 | 弁護士法人化 代表弁護士に就任 |
2022年 | 賃貸不動産経営管理士試験 合格 2級FP技能検定 合格 宅地建物取引士試験 合格 |
2024年 | 保育士試験 合格 (令和5年後期試験) 競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験) |
【その他のWeb活動】
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