後遺障害とは?意味や認定までの流れをわかりやすく解説

後遺障害認定を受けるときのポイント

交通事故によって負傷し、治療しても完治せずに後遺症が残ってしまったら、その内容・程度によっては、継続的な治療や介護等が必要となり、金銭面で大きな負担を強いられることにもつながりかねません。

しかし、後遺障害の等級認定を受けることができれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの請求が認められる結果、より手厚い補償を受けることができるといえます。そのため、後遺症が残ったときは、後遺障害の等級認定を申請しましょう。

本記事では後遺障害の概要や、後遺障害の等級認定を受けるための条件、審査の流れ、認定を受ける際のポイント、認定を受けた後の対応について解説します。

  • 交通事故との因果関係や医学的に存在する症状がなければ後遺障害とは認められない
  • 後遺障害の等級認定を受けるには原則として6カ月以上の通院期間と一定の通院実日数、通院頻度が必要
  • 後遺障害認定の申請方法によって必要書類は異なる
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

後遺障害とは?

後遺障害とは、交通事故によって受けた傷害が治療を受けても完治せず、精神的または肉体的な障害が残ってしまった状態について、自賠責保険の等級認定を受けたものを意味します。後遺障害と認められるには、原因となった傷害と症状との間に因果関係があり、かつその存在が医学的にも認められることが必要です。

交通事故においては、後遺障害と認定されるか否かによって賠償請求額が大幅に変動します。

後遺障害と後遺症の違い

後遺障害と後遺症は、治療を続けたものの完治せず、精神または身体に何らかの障害が残ってしまうという点は共通しています。しかし、後遺障害は、後遺症のうち、交通事故によって症状が発生し、かつ、後遺障害の等級認定を受けたもの(損害保険料率算出機構が自賠法施行令に基づき認定した障害)を指します。

後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、認定された後遺障害等級に応じて請求できるものなので、後遺障害の等級認定を受けない限り(後遺症のままでは)、これらを請求することはできません。そのため、交通事故によって後遺症が残った場合、その損害について十分な賠償を得るためには、所定の審査を受け、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。

後遺障害の等級認定を受けることで請求できるもの

所定の審査を受けて後遺障害の等級認定を受けると、原因となった交通事故において、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料のことです。等級にかかわらず、後遺障害認定を受けたら誰でも認定され、等級に応じて自賠責保険による支給額が決定されます。

一方、後遺障害逸失利益とは、被害者が後遺障害を負わなかった場合に得られるはずだった収入の損失のことです。後遺障害は身体や精神に障害を残すものですので、その程度によっては労働能力が制限されて、休職や退職、休廃業などを余儀なくされることがあります。後遺障害逸失利益は、そのような場合を想定して、将来得られるはずだった収入分の損失を補填する役割を果たすものです。

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後遺障害と認定されるための条件

正式に後遺障害と認定されるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。条件に該当しなければ、たとえ精神や身体に障害が残っていても交通事故による後遺障害と認定してもらえないので要注意です。

ここでは後遺障害と認定されるための条件を5つに分けて説明します。

交通事故との因果関係がある

交通事故による後遺障害の認定を受けるには、後遺症と事故との間に因果関係があることを証明しなければなりません。たとえ、精神や身体に何らかの障害が残ったとしても、それが事故と無関係であれば、後遺障害とは認定されず、損害賠償請求の対象外となります。

交通事故と後遺症の因果関係を証明するには、症状を自覚した段階ですぐに病院を受診して症状を伝え、必要な診察や検査を受けて診断書を作成してもらうことが重要です。

特に、むちうちなどのけがは事故発生からしばらく時間が経過した後になって痛みやしびれが出てくること(痛みやしびれに気づくこと)があるので、事故直後に異常がなかったとしても、少しでも違和感があるならば、念のため受診しておくことをおすすめします。

一貫して継続的な症状がある

後遺障害の認定を受けるには、交通事故によって発生した症状が、医師から症状固定と判断されるまで一貫していること、継続していることが必要です。治療の途中で症状がおさまった場合や、通院を開始してから相当期間経過後に新たに症状が現れた場合、後遺障害と認定されない可能性があります。

なお、初診時はあまり気にならなかったので医師に症状を訴えなかったものの、時間が経過するにつれて痛みがひどくなってきたので、その段階で医師に症状を伝えたというケースは、少なくありません。しかし、このように、後から「実は当初から痛みがあった」と訴えても認められない可能性は高いので、初診時には軽微な痛みであっても必ず医師に伝えるようにしましょう。

症状を医学的に証明できる

たとえ、痛みや違和感などの自覚症状があっても、その症状が医学的に証明されなければ(他覚所見がなければ)、原則として後遺障害とは認められません。医学的に証明するためには、レントゲン検査やMRI検査などの検査を行い、画像所見を残しておく必要があります。

特に、近年はMRIによる画像所見が認定審査において重要視される傾向にあるので、目に見えない痛みや違和感がある場合は、レントゲンよりもさらに詳しい所見を得られるMRIなどの検査をしっかり受けるようにしましょう。

なお、事故発生時から一定の時間が経過すると、炎症の痕跡を確認できなくなってしまうことがあるので、MRI検査はなるべく早めに受けることが重要です。

後遺障害等級の認定基準を満たしている

後遺障害は、障害の内容や度合いによって14の等級に区分されています。それぞれ等級ごとに認定基準が定められており、いずれかに該当しなければ認定を受けることができません。

例えば、最も軽症である14十四級では、以下のような認定基準を定めています。

  • 1眼(片目)のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの
  • 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  • 片耳の聴力が1一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
  • 上肢の露出面にてのひらの大きさの酷いあとを残すもの
  • 下肢の露出面にてのひらの大きさの酷いあとを残すもの
  • 1手(片手)の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
  • 局部に神経症状を残すもの、など

(参照:厚生労働省「障害等級表」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken03/index.html

等級ごとの認定基準は厚生労働省のホームページなどに掲載されているので、あらかじめチェックしておきましょう。

治療期間が適切である

後遺障害は、一定期間以上の治療を受けても症状が完治しなかった場合に認められるものなので、治療期間が短い場合は認定されない可能性があります。

適切とされる治療期間は等級によって異なりますが、例えば、14等級の場合は、通院期間が6か月以上であるかどうかが一つの目安といわれています。一般的に、通院期間が長いほど後遺障害の等級認定を受けられる確率は高くなるともいわれていますが、通院実日数(実際に通院した日数)や通院の頻度も重要なポイントとなります。

通院日日数が少なかったり、通院の頻度が不定期だったりすると(例えば、合理的な理由がないのに、月ごとに実通院日数に大きな差がある場合です。)、通院期間が6か月以上にわたっていても認定を受けられないことは珍しくありませんので、注意が必要です。

後遺障害の等級認定の審査を受ける流れ

後遺障害認定を受けるときのポイント

後遺障害の等級認定を受けるためには、所定の審査を受ける必要があります。審査を受けるには、診断書等の必要書類を揃えて所定の手続に則って申請しなければならないので、全体の流れを把握しておきましょう。

ここでは認定審査を受けるための大まかな流れを解説します。

症状固定の診断を受ける

症状固定とは、これ以上治療を受けても改善を期待できない状態のことです。症状固定となるタイミングは医師の判断によって決まるので、痛みや違和感が残存している場合、「これ以上治療を続けても意味がない」等と自身で判断し、独断で治療を中止することがないようにしましょう。

なお、交通事故に遭って負傷した場合、一般的に、加害者側の任意保険会社が医療機関に支払う治療費を立替えてくれますが(これを「一括対応」といいます。)、治療の途中で加害者側の任意保険会社から、治療費の支払い打ち切りを打診されることがあります。しかし、症状固定したと医師が判断していない場合は、加害者側の保険会社に対して、医師から治療を続けるように言われている旨を伝えて、一括対応の継続を求めましょう。

もし、加害者側の保険会社が一括対応の継続希望に応じず、一方的に治療費の支払いを打ち切った場合には、一旦、治療費を被害者が自ら支払う必要が生じます。このような場合、自由診療では高額な治療費の支払いに追われることになりますので、医師と相談の上、保険診療に切り替えて(自身の健康保険を利用して)通院を続けるとよいでしょう。

必要書類を準備して申請する

後遺障害の等級認定の申請には、所定の書類の準備が必要です。必要書類は認定の申請方法によって異なり、加害者側の任意保険会社を介して申請する事前認定の場合、被害者側は基本的に後遺障害診断書のみを準備することになります。

一方、加害者が任意保険に未加入だった場合や、後遺障害の等級認定を受ける確率を少しでも上げたいと考えた場合は、被害者が直接自賠責保険に申請する被害者請求を行いましょう。被害者請求の場合、以下のような書類を自身で集める必要があります。

  • 支払請求書
  • 診療報酬明細書
  • 交通事故証明書
  • 事故発生状況報告書
  • 医師の診断書
  • 印鑑証明書
  • 休業損害証明書類
  • 通院交通費明細書
  • 付添看護自認書

用意した書類は、加害者側の自賠責保険取扱会社に提出します。

書類を損害保険料率算出機構に提出する

任意保険会社または自賠責保険取扱会社が、受け取った必要書類を損害保険料率算出機構に提出します。

損害保険料率算出機構とは、自賠責保険への請求に対し、中立的な立場から公正な損害調査を実施することを目的とした機関のことです。全国の主要な都市に自賠責損害調査事務所が設置されており、保険会社から受け取った書類を基に、自賠責保険の基準料率算出に必要な調査の実施および結果の報告を行っています。

この調査は、後遺障害の等級認定の申請方法にかかわらず(事前認定であっても被害者請求であっても)、必ず行われます。

損害保険料率算出機構で審査を受ける

損害保険料算出機構は受理した必要書類に基づき、事故発生状況や支払いの適格性、発生した損害額などを公正かつ中立的な立場で調査し、その結果を任意保険会社や自賠責保険取扱会社に報告します。

万一、書類のみで事実確認できない場合は、事故当事者に対して事故状況の照会を行ったり、医療機関に対して被害者の治療状況の確認を行ったりすることもあります。

なお、審査の結果、後遺障害等級が認定されると、等級に応じた保険金額が申請者に支払われます。

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後遺障害の等級認定を受けるときのポイント

後遺障害は、申請すれば必ず認定されるものではなく、審査の結果、認定されないことも多々あります。

認定されなかった場合、異議申し立てを行うことが可能ですが、なるべく一度の申請で認定を受けられるよう、以下のポイントを押さえてから手続を行うようにしましょう。

自覚症状を的確に伝える

後遺障害の等級認定に必要な診断書は医師が作成するものなので、診察を受けたときは、どこがどのように痛むのか、日常生活のどういうシーンで不便を感じるのかなど、具体的な症状をきちんと説明することが大切です。

曖昧な表現をすると必要な検査を受けられなかったり(医師が検査不要と判断したり)、診断書に明確な症状として記載されなかったりして、認定基準を満たせなくなる可能性があります。

また、当初は軽微な症状であっても、時間が経過してから痛みや違和感が増してくることもあるので、気になる症状がある場合は、初診段階で漏れなく医師に伝えるようにしましょう。

提出書類を工夫する

後遺障害の等級認定は、必要書類に基づいて審査するので、書類はなるべくわかりやすい状態で提出するのが無難です。例えば、レントゲンやMRIの画像で、症状が現れている部分に印を付けるなどの工夫を挙げることができます。

特に、異常が生じている部位が小さいもの、画像で見えづらいものだった場合、審査の過程で見逃されてしまうおそれがあるので、一手間加えて見やすい状態に仕上げておくことが大切です。

ただし、一定の専門的知識がなければ上記の工夫をこらすことはできませんので、独断で行うことは避けた方がよいでしょう。

弁護士に相談する

後遺障害の等級認定を受けるには、認定基準を満たしているか、適切な期間・回数・頻度の治療を受けているか、必要書類に不備はないかなど、さまざまな条件をクリアしなければなりません。

十分な知識を有していない状態で手続を進めようとすると、書類の不備等で補正が必要となったり、不定期通院等を理由に認定を受けられなくなったりするおそれがあるので、後遺障害の等級認定について豊富な知識・経験のある弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けた方がよいでしょう。

なお、弁護士に相談すれば、認定を受けられるかどうかの見通しについても助言を得ることができますので、なるべく早期に相談することをお勧めします。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
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後遺障害の等級認定審査を受けた後の対応

後遺障害の等級認定審査を受けた後の対応は、審査結果に納得できたかどうかによって異なります。審査結果に納得できた場合は、その審査結果を前提として示談交渉を進めることになります。一方、審査結果に不満がある場合は、異議申し立てを検討することになります。

異議申し立てを検討する

後遺障害の等級認定審査を受けた結果、認定を受けられなかった場合、あるいは認定された等級が予想していた等級よりも低かった場合など、内容に不満があるときは、異議申し立てを行うことを検討することになります。

異議申し立てを行う場合は、最初の申請と同じく、損害保険料率算出機構に対して再調査の申請が必要です。異議申し立てには異議申立書の他、必要に応じて検査票や医師による照会回答書、診断書、報告書などの新しい資料を提出することができます。なお、既に提出している資料だけでは異議申し立てをしても、判断が覆る可能性は低いため、新しい資料を添付するのが一般的です。

示談交渉を進める

後遺障害の等級認定を受け、かつ等級に納得している場合は、加害者側との示談交渉を進めます。

示談交渉を開始すると、任意保険会社からは後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの額が提示されますが、金額に不満がある場合は保険会社と交渉を続ける必要があります。

提示された金額が妥当かどうか、正当な補償を受けるにはどうすればよいか、などの判断は専門知識がないと難しいので、交通事故の賠償や後遺障害認定に詳しい弁護士に相談し、支援やアドバイスを得ながら示談交渉を進めた方がよいでしょう。

まとめ

交通事故に遭い、治療を受けても何らかの症状が残ってしまった場合は、後遺障害の等級認定審査を受けましょう。後遺障害の等級認定を受ければ、等級に応じた後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求でき、充実した補償を受けることができます。

ただし、認定を受けるにはいくつかの条件を満たさなければならないので、後遺障害の等級認定に関して豊富な知識・経験を有する弁護士に相談して適切なアドバイスを受けながら手続を進めるのが無難です。

弁護士法人琥珀法律事務所では、相談者の状況を的確に把握するように努め、後遺障害の等級認定について適切に支援します。交通事故で悩んでいる方や、後遺障害等級認定手続の進め方に不安がある方は、弊所へご相談ください。

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】