自転車と車の事故の過失割合は?事例ごとに詳しく紹介

自転車と車の事故における過失割合はどう決まる?

自転車と車の事故では、一般的に車側の過失(責任)が大きくなりやすいとされています。車に比べて自転車は交通弱者といえますので、車側の過失が厳しく判断される傾向にあります(「交通弱者保護の原則」と呼ばれることがあります)。

しかし、自転車であっても、事故発生状況次第で、事故に対する過失が車より重くなる事例は存在します。自転車と車の事故の過失割合について、正しい知識を持っておきましょう。

この記事では、統計から見た自転車対車の事故の特徴や、それぞれの過失割合の決め方、事故類型別の過失割合について紹介します。

  • 自転車と車の事故では、車の運転者が重い責任を負いやすい
  • 交通事故の損害賠償では、互いの過失割合によって賠償金が変わる
  • 自転車の過失割合の方が高くなった事例もある

(参考: 『令和5年交通安全白書』

琥珀法律事務所の代表弁護士 川浪芳聖の顔写真

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

自転車と車の事故の特徴

警察庁によると、令和4年に発生した自転車関連交通事故のうち、対車両の事故は79.3%(5万5,471件)を占めています。自転車が当事者となった交通事故のうち、大部分が車との事故ということです。

自転車と車の事故は、人の死亡または負傷を伴う人身事故の割合が高く、事故後に車側の運転者が重い責任を問われるケースもあります。ここでは、自転車と車の事故の特徴について解説します。

(参考: 『自転車関連交通事故の状況』

自転車と車の事故は重症になる確率が高い

自転車と車の事故は、自転車側に死亡者または重傷者が出やすいのが特徴です。内閣府によると、平成30年~令和4年に起きた自転車関連死亡重傷事故のうち、対車両の事故が約4分の3(2万9,248件)を占めています。

自転車に乗っていた方が死亡したり、日常生活に影響が出るような重い障害が残ったりするケースも相当数あり、車側の運転者が高額な賠償責任を負う事例も発生しています。

(参考: 『令和5年交通安全白書』

歩行者とは異なる動きをする

自転車は歩行者と比べてスピードが速いため、車側の運転者からしてみれば、動きを予測しづらいという特徴が認められます。実際、自転車については、急な進路変更や歩道から道路への飛び出しが散見されます。事故時にスピードが出ていると、自転車側が重篤な怪我をする可能性が高くなるので、車の運転者にとっても注意が必要です。

過去には、自転車が見通しの悪い道路外から突然飛び出してくる事故も発生しており、自転車対車の事故が起きやすい原因の一つとなっています。

自転車と車の事故における過失割合の意味

交通事故の示談交渉では、事故発生状況を踏まえて、過失割合を決定します。この過失割合は、賠償金(示談金)の金額に影響するため、示談交渉において重要な争点の一つとなりやすいポイントです。

ここでは、自転車と車の事故における過失・故意の意味や、過失割合の定義、過失割合と賠償金の関係について解説します。

過失・故意の意味

故意とは、不注意ではなく意図的に事故を起こすこと、過失とは、事故に対する注意義務違反の責任が十分に認められることです。民法709条では、不法行為を行った人に故意または過失が認められた場合、加害者は被害者に対し損害賠償責任を負います。故意又は過失(不注意)で交通事故を発生させた場合、民法709条に基づいて責任を負うことになります。

また、交通事故のうち、人の生命・身体に損害が生じる人身事故については、加害者は、自動車損害賠償保障法(自賠責法)によっても損害賠償責任を負うことになります。具体的には、自賠責法3条は、加害者が以下の3点を全て証明できない場合、被害者に対する損害賠償責任を負うと規定しています。

  • 自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと
  • 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
  • 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと

(参考: 『民法』

(参考: 『自動車損害賠償保障法』

過失割合の意味

示談交渉段階において、交通事故の損害賠償額は、事故当事者の合意で決定されます。示談交渉において争点の一つになりやすいのが、過失割合です。

過失割合とは、交通事故の当事者が、事故に対してどの程度の責任を負うか(当事者それぞれの責任の割合)を数字で表したものです。例えば、加害者の過失が60%、被害者の過失が40%と認められた場合、過失割合を60対40(または6対4)と表現します。

交通事故における過失は、常に加害者側だけに認められるとは限りません。事故の原因の一部が被害者側にあるケースも多々あります(というよりも、事故の一方当事者にしか過失がないケースは少ないといえます。)。

過失割合は、事故によって生じた損害を公平に分担することを理念としています。

過失割合と賠償金の関係

しかし、交通事故の示談交渉では、相手方が自分にとって有利な過失割合を主張するケースが少なくありません。その理由の一つとして、過失割合が損害賠償額に大きく影響することを挙げることができます。

例えば、被害者に生じた損害額が1000万円だった場合、加害者の過失が60%、被害者の過失が40%であれば、加害者が負う賠償責任は1000万円の60%相当額である600万円になりますが、加害者の過失が80%、被害者の過失が20%であれば、加害者が負う賠償責任は1000万円の80%相当額である800万円ということになります。

このように、過失割合によって加害者側が負う賠償責任(別の言い方をすると、被害者が受け取ることのできる賠償金額)は大きく異なりますので、当事者間で揉めることが多いといえます。

過失相殺の意味

過失割合に関して、民法722条2項は、下記のとおり、過失相殺について定めています。

“被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。”

なお、上記の「裁判所は、…できる。」という定め方に照らし、不法行為における過失相殺は義務的なものではない(裁判所は、被害者側の過失を考慮しないこと(過失相殺しないこと)も可能)とされていますが、交通事故の場合、裁判手続では、被害者側に過失がある限り、ほぼ過失相殺が行われていると思います。

(参考: 『民法』

法律問題でお困りの方、まずはご相談ください。

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

【事例別】自転車と車の事故における過失割合

東京地方裁判所民事交通訴訟研究会が編集する「別冊判例タイムズ38号」では、事故の類型ごとに基本となる過失割合(基本過失割合)を設定しています。ここでは、以下の3つの事故類型を取り上げ、自転車と車の事故における基本過失割合を紹介します。

  • 信号機のある交差点での直進同士の事故の場合
  • 信号機のない交差点での直進同士の事故の場合
  • 歩行者用信号機が設置された横断歩道での事故の場合

信号機のある交差点での直進同士の事故の場合

信号機のある交差点での直進同士・出合い頭の事故の場合、自転車側・車側の信号の色によって、それぞれの基本過失割合が設定されます。

自転車・信号の色車・信号の色自転車・過失割合車・過失割合
0%100%
80%20%
10%90%
60%40%
30%70%

このように自転車対車の交通事故は、交通弱者保護の原則により、総じて、自転車側の過失割合が車側よりも低くなる傾向にあります。

ただし、自転車が赤信号を無視して交差点に進入した場合のように、明らかに自転車側の注意義務違反の程度が大きいケースでは、自転車側に相当な過失が認められていることに留意しましょう。

信号機のない交差点での直進同士の事故の場合

信号機のない交差点での直進同士の事故の場合、道路の幅やどちら側に一時停止規制があったかといった点で基本過失割合が決まります。

事故の状況自転車の過失割合車の過失割合
同じ幅の道路の場合20%80%
自転車が広路・車が狭路の場合10%90%
自転車が狭路・車が広路の場合30%70%
自転車側道路に一時停止規制あり、車側道路に一時停止規制なしの場合40%60%
自転車側道路に一時停止規制なし、車側道路に一時停止規制ありの場合10%90%
自転車が優先道路の場合10%90%
車側が優先道路の場合50%50%
自転車が一方通行違反の場合50%50%
車が一方通行違反の場合
10%
90%

上記は、あくまで基本過失割合を示したものにすぎません。自転車の運転者が児童又は高齢者だった場合や自転車が自転車横断帯を通行していた場合、事故発生時が夜間だった場合等の事情によって、この基本過失割合は修正を受ける可能性があることをおぼえておきましょう。

歩行者用信号機が設置された横断歩道での事故の場合

自転車は、道路交通法上は車両の一種(軽車両)と規定されていますが(道路交通法2条8号、11号)、横断歩道を走行する際は歩行者用の信号機又は歩行者・自転車専用信号機に従うことになります。歩行者用信号機又は歩行者・自転車専用信号機が設置された横断歩道での事故の場合(ただし、車は直進の場合とします。)、自転車と車の過失割合は以下の表のとおりです。

自転車・信号の色車・信号の色自転車・過失割合車・過失割合
55%45%
青点滅10%90%

25%
75%
75%25%

上記もあくまで基本過失割合を示したものです。事故発生時が夜間だった場合や自転車の運転者が児童又は高齢者だった場合、自転車に著しい過失が認められる場合(無灯火運転、傘さし運転等の片手運転、携帯電話を使用しながらの運転等)等の事情によって、この基本過失割合は修正を受ける可能性があります。

その他の事故の場合

その他の事故類型として、自転車・車のいずれかが道路外から進入する事故、直進自転車と左折車の事故などあります。

事故の状況自転車・過失割合車・過失割合
自転車が交差点以外の場所・横断歩道のない場所を横断しようとして道路を直進してきた車と衝突した場合30%
70%
自転車が道路を直進中に道路外から進入してきた車と衝突した場合10%90%
自転車が道路外から道路に進入しようとして道路を直進中の車と衝突した場合40%
60%
車が道路外に出ようとして右折し、道路を直進中の自転車に衝突した場合10%90%
自転車が道路をセンターオーバーして反対車線に進入し、反対車線を直進してきた対向車と衝突した場合50%50%
道路を先行していた直進車が進路を変更し、後続の直進自転車と衝突した場合10%90%
道路を先行していた直進自転車が前方に障害物(駐車自動車等)を認めて進路を変更し、後続の直進自動車と衝突した場合10%90%
道路を先行していた直進自転車が進路を変更し、後続の直進自動車と衝突した場合(自転車の前方に障害物がなかったことが前提)20%
80%

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
法律のお悩み全般をご相談いただけます。

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

自転車と車の事故における過失割合はどう決まる?

自転車と車の事故における過失割合は、以下の4つのステップで決定します。

  1. 当事者同士の認識をすり合わせる
  2. 事故類型ごとの基本過失割合を確認する
  3. 過失割合の修正を行う
  4. 当事者同士で合意する

基本過失割合がそのまま採用されず、事故の状況や態様に基づいて、修正要素を加える場合もあります。事故後の示談交渉で過失割合を決める流れを確認しておきましょう。

当事者同士の認識をすり合わせる

示談交渉においては、交通事故の過失割合は、基本的に当事者同士の合意で決定します。警察が過失割合を決定するのではありません。

過失割合を決めるにあたって、まずは事故の状況や態様について、当事者同士の認識をすり合わせておくことが大切です。当事者双方の認識に相違がある場合は少なくありませんので、警察が作成した物件事故報告書や実況見分調書、ドライブレコーダーの映像、事故直後に撮影した写真などの資料を確保し、これらの資料に照らして話し合いを進めていくことはよくあります。

事故類型ごとの基本過失割合を確認する

交通事故は毎年相当な件数が発生しており、裁判例が蓄積されています。この過去の裁判例の蓄積を踏まえて、事故類型別に基本的な過失割合(認定基準)が存在します。その代表的なものが、東京地裁民事交通訴訟研究会が編集した「別冊判例タイムズ38号」です。

示談交渉では、発生した事故がどの事故類型に該当するか、又はどの事故類型に類似するかをまずは検討し、基本過失割合を確認します。その後、基本過失割合をベースとして、個別に修正すべき点がないかを話し合っていくことになります。

過失割合の修正を行う

東京地裁民事交通訴訟研究会が編集した「別冊判例タイムズ38号」には、事故の状況・態様による修正要素も掲載されています。示談交渉では、基本過失割合を修正すべき事情があるかを検討し、最終的な過失割合を決定します。

例えば、交差点における自転車対車の出合い頭の事故の場合、事故当時が夜間だったか、自転車が右側通行をしていたか、自転車側に著しい過失や重過失はなかったか、といった事情を考慮し、基本過失割合を修正します。

当事者同士で合意する

示談交渉においては、事故当事者双方が合意することによって過失割合が決まります。どちらか一方が同意しない場合、過失割合は確定しません。

前述のとおり、過失割合は損害賠償額に影響するので、示談交渉において揉めやすいポイントの一つといえます。過失割合について合意できず、示談交渉がまとまらない場合は、裁判(訴訟)などの選択肢も検討する必要があります。なお、裁判手続では、最終的に裁判官が過失割合を決定することになります。

示談交渉をスムーズに終えたい場合は、なるべく早い段階から弁護士に相談する等して、適切な過失割合を確認しておくことをお勧めします。

自転車と車の事故における修正要素

自転車と車の事故では、常に車側の過失割合が大きくなるわけではありません。

過失割合は事故類型ごとに決まるのが原則ですが、各種修正要素が存在します。自転車側に著しい過失(片手運転、酒気帯び運転、無灯火、2人乗りなど)が認められる場合や重過失(酒酔い運転、制動装置不良など)が認められる場合は自転車側の過失が加算され、自転車側の過失割合が車側よりも大きくことも珍しくありません。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
法律のお悩み全般をご相談いただけます。

琥珀法律事務所 電話お問い合わせ

まとめ

自転車に関連する交通事故の多くは、車が相手の事故です。自転車と車の事故では、車の過失割合が大きくなるケースが一般的ですが、自転車側の過失が大きいと判断されるケースもあります。過失割合の決め方について、実際の事故類型を踏まえて理解しておきましょう。

交通事故の示談交渉でお悩みの方は、弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。特に過失割合を巡って事故の相手方と主張が対立している場合、自身で適切な過失割合を判断することは容易ではありませんので、弁護士に相談してその見解や裁判に至った場合の見通し等を確認されることを強くお勧めします。

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】