巻き込み事故とは?過失割合や修正要素について詳しく解説

巻き込み事故とは

交差点での交通事故の中でも、加害者・被害者ともに特に気をつけなければならないのが「巻き込み事故」です。大型トラック等の大型車両に巻き込まれたときには、重傷を負う可能性は高くなりますし、死亡という最悪の結果が生じることも少なくありません。

では、巻き込み事故が発生した場合、加害者・被害者の過失割合はどのように決まるのでしょうか。この記事では、巻き込み事故の発生件数や過失割合の考え方、巻き込み事故が発生する主な原因について解説します。

 
  • 大型トラックなどの大型車両が左折する際の巻き込み事故が多発している
  • 巻き込み事故の過失割合は、基本的に巻き込んだ側の車両の方が高くなる
  • 事案ごとの個別事情を考慮して、過失割合に修正要素が加えられる場合もある

(参考: 『交通事故統計及び事故事例の分析に基づく死亡事故の低減のためのポイント』p19

 
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

巻き込み事故とは?

巻き込み事故とは、自動車が交差点で右左折するときに、より小型の二輪車(自転車・バイク)や、歩行者を車両の内側に巻き込む事故のことです。死亡・重傷事故につながりやすく、警察庁や国土交通省なども注意喚起を行っています。特に、大型トラック等の大型車両の場合、死角が生じやすい上に、普通車両に比べて内輪差が大きくなるので、巻き込み事故が生じやすいといえます。

ここでは、巻き込み事故の概要や発生件数を紹介します。

巻き込み事故の概要

大型トラックなどの大型車両(車両総重量11,000キログラム (kg) 以上、最大積載量6,500kg以上、または乗車定員30人以上の、四輪以上の車輛を意味します。)は死角が多く、運転中に後続の二輪車や、横断歩道を歩く歩行者の発見が遅れる場合があります。そういった状況の中、右左折時に歩行者や後続二輪車を巻き込み、負傷または死亡させる事故が「巻き込み事故」です。

以下の事例のように、交差点の左折時に巻き込み事故が起きやすいといわれています。

【交差点左折時に自転車を巻き込み】
青信号に従い、左折の合図とともに、時速約20キロメートルの比較的速い速度で左折を開始したところ、歩道を後方から併走してきた自転車乗りを左後輪に巻き込み死亡させた。

(参考: 『交差点左折時に自転車を巻き込み』p1

巻き込み事故の発生件数

少し古いデータになりますが、平成27年の交通事故統計によると、左折中のトラックと自転車の間で起きた死亡事故(27件)のうち、89%(24件)が巻き込み事故です。さらにその83%(20件)が大型車両によるものです。

一方、右折時の事故は、全体の73%が横断歩道歩行中に発生しています。巻き込み事故の割合は左折時よりも高くないものの、横断歩道を通行する歩行者を巻き込まないよう、注意深く運転することが求められます。

(参考: 『交通事故統計及び事故事例の分析に基づく死亡事故の低減のためのポイント』p19

巻き込み事故における過失割合

交通事故における加害者・被害者それぞれの責任を「過失割合」といいます。以下のような事案が発生したとき、双方の過失割合はどのように決まるのでしょうか。

 
  • 左折車とバイクの巻き込み事故
  • 左折車と自転車の巻き込み事故
  • 左折バイクと自動車の巻き込み事故

東京地方裁判所民事交通訴訟研究会編「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」に基づいて、基本となる過失割合(基本過失割合)を紹介します。

左折車とバイクの巻き込み事故

左折車とバイクの巻き込み事故では、以下のようなケースが考えられます。

 
  • バイクが交差点を直進していたところ、後方から車(四輪車)が追い越し、左折する際に巻き込んだ
  • 車が後方で直進するバイクに先行しており、合図を出して交差点を左折する際に巻き込んだ

それぞれの基本過失割合は以下の表のとおりです。

事案 左折車の過失割合 バイクの過失割合
バイクが直進し、追い越し左折車が巻き込んだ 90 10
車がバイクに先行し、合図を出して左折した際に巻き込んだ 80 20

バイク側にも一定の過失が認められるのは、左折車の合図や動きに注意していれば、事故を未然に防止できた可能性があるからです。それでも、全体として左折車の過失割合が高くなっています。

左折車と自転車の巻き込み事故

左折車と自転車の巻き込み事故では、以下のようなケースが考えられます。

 
  • 直進する自転車を車(四輪車)が追い越し、交差点を左折する際に巻き込んだ
  • 先行している車が、合図を出して交差点を左折する際に後続の自転車を巻き込んだ

それぞれの基本過失割合は以下の表のとおりです。

事案 左折車の過失割合 自転車の過失割合
自転車が直進し、追い越し左折車が巻き込んだ 100 0
車が自転車に先行し、合図を出して左折した際に巻き込んだ 90 10

左折車がバイクを巻き込んだ事案よりも、車側の過失割合が高くなります。自転車はバイクよりも交通弱者であるからです(交通弱者の法理)。なお、一般的に、四輪車→単車→自転車→歩行者の順に立場が弱く、相互間で交通事故が生じた場合、後者の方がより大きな損害を被りやすい傾向にあるため、後者になればなるほど、いわゆる交通弱者として手厚い保護が必要になり、その反面、前者になればなるほど後者との関係でより重い注意義務が課されることになると解されています(京都地裁令和4年3月17日判決参照)。

特に、追い越し左折車が巻き込み事故を起こした場合、車と自転車の過失割合は100対0です。このように、自転車側の過失は一切なく、左折車の過失のみ認められることに注意すべきです。

左折バイクと自動車の巻き込み事故

一方、自動車とバイクの立場が入れ替わり、左折バイクが巻き込み事故を起こした場合はどうなるのでしょうか。

事案 左折バイクの過失割合 自動車の過失割合
自動車が直進し、左折バイクが追い越そうとして巻き込んだ 80 20
バイクが車に先行し、合図を出して左折した際に巻き込んだ 60 40

一般的に車とバイクの事故では、車側の過失割合の方が高くなります。しかし、左折バイクが自動車を巻き込んで事故を起こした場合、バイク側の責任の方が重くなり、上記の表のように過失割合が逆転します。

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巻き込み事故における過失割合の修正要素

交通事故の示談交渉では、事案ごとの個別事情を考慮して、基本過失割合に修正要素を付け加える場合があります。例えば、以下のような事故状況に当てはまるケースです。

 
  • 必要な安全確認を怠った場合(徐行して安全確認することを怠った場合など)
  • 合図遅れ・合図なしの場合
  • 右左折の方法が適切ではなかった場合(大回り左折など)
  • 速度違反が認められる場合

必要な安全確認を怠った場合

巻き込み事故の当事者のうち、いずれか一方(または両方)が安全確認を怠った場合、その当事者の過失割合が加算されます。

例えば、左折車が先行して直進バイクを巻き込んだ事案を例に挙げると、車が徐行なしで左折した場合、車側の責任がより重くなります。

一方、後続のバイクに著しい前方不注視が認められる場合(横向きになって後部同乗者と話していた場合など)は、バイク側の過失割合が加算されることを知っておきましょう。

事案 左折車の修正要素 バイクの修正要素
車が徐行なし +10 -10
バイクが著しい前方不注視 -10 +10

合図遅れ・合図なし場合

ウィンカーを出すのが遅れるなど、左折車が適切に合図を行わなかった場合も過失割合が加算されます。また、ウィンカーを出さずに(合図を行わずに)左折した場合は、より責任が重くなります。

例えば、バイクが直進し、追い越し左折車が巻き込んだ事例を例に挙げると、基本過失割合の修正は以下の表のとおりです。

事案 左折車の修正要素 バイクの修正要素
車の合図が遅れた +5 -5
車が合図せず +10 -10

右左折の方法が適切ではなかった場合

車の右左折の方法が適切ではなかった場合も、車側の過失割合が加算されます。

例えば、先行する左折車が直進バイクを巻き込んだ事例では、基本過失割合の修正は以下の表のとおりです。

なお、直近左折とは、直進車の至近距離で左折する場合を指し、大回り左折は左折車があらかじめ道路の左側端に寄らずに左折する場合を指します。また、進入路鋭角左折とは、左折車が時計の8時の方向に左折するような場合(急な角度で左折するような場合)を指します。

事案 車側の修正要素 バイクの修正要素
車の大回り左折 +10 -10
車の進入路鋭角 +10 -10
車の直近左折 +10 -10

速度違反が認められる場合

事故の当事者のいずれか一方(または両方)に速度違反がある場合も、その当事者の過失割合が加算されます。

例えば、先行する左折車が直進バイクを巻き込んだ事故では、基本過失割合の修正は以下の表のとおりです。

事案 左折車の修正要素 バイクの修正要素
バイクが速度違反(15キロメートル以上) -10 +10
バイクが速度違反(30キロメートル以上) -20 +20

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巻き込み事故が発生する主な原因

巻き込み事故が発生する主な原因は、大きく分けて4つあります。

 
  • 後方の確認が不十分だった
  • 内輪差を考慮していなかった
  • 右左折の指示を出すのが遅れた
  • 死角を意識していなかった

後方の確認が不十分だった

1つ目は、先行する車側の後方確認が十分ではなく、後続のバイクや自転車の存在に気付かなかったケースです。

右折時は自車両の右側後方、左折時は左側後方を意識し、巻き込みの恐れがないか確認しなければなりません。特に、トラックなどの大型車両は車体が大きいため、巻き込み時の衝撃が小さく、自転車や歩行者との接触に気付きにくいという実態があります。

右左折する際は、ミラー・目視で後方の安全確認を行うことが大切です。

内輪差を考慮していなかった

2つ目は、車の運転者が内輪差を考慮していなかったケースです。

内輪差とは、曲がるときに後輪が前輪よりも内側を通ることで生じる差のことです。内輪差の目安はホイールベースの1/3程度であり、大型車両で約1.8メートル、中型車両で約1.4メートルの内輪差が生じます。

特に、車室が長い大型トラックは内輪差が大きく、左折時に左側方のバイクや自転車、歩行者などを巻き込んでしまう危険があります。そのため、常に内輪差を意識した運転を心がけることが大切です。

(参考: 『運転者に対する指導及び監督』p5

右左折の合図を出すのが遅れた

3つ目は、ウィンカー(方向指示器)などで右左折の合図を出すのが遅れたケースです。後続の車両や歩行者に指示が伝わらず、右左折時に巻き込んでしまう場合があります。

ウィンカーで合図を出すタイミングは、道路交通法第53条第1項および道路交通法施行令第21条において、以下のように規定されています。

  合図を出すタイミング
左折時 交差点の30メートル手前の地点に達したとき
右折・転回時  

後続の車両や歩行者の安全のためにも、交差点の30メートル手前を目安として、ウィンカーを出すように心がけることが大切です。

(参考: 『道路交通法』

(参考: 『道路交通法施行令』

死角を意識していなかった

4つ目は、運転者が死角を意識していなかったケースです。

特に、大型車両を運転している場合、右側後方や左側後方が死角になりやすいため、ミラー・目視でしっかりと確認する必要があります。

トラックの場合、助手席の下側にある安全確認用窓(安全窓)を通じて、左折時に後方を確認することが可能です。安全確認用窓の視界を確保できるよう、助手席の床面にモノを置かないことが巻き込み事故の防止につながります。

巻き込み事故の過失割合に納得できないときの対応方法

交通事故の示談交渉では、まず加害者側の保険会社(任意保険会社)から賠償額を提示されるのが一般的です。相手方が算定した過失割合に納得がいかない場合は、以下の2つの方法で対処しましょう。

 
  • 証拠をもとに示談交渉を進める
  • 交通事故に詳しい弁護士に相談する

証拠をもとに示談交渉を進める

過失割合は、前掲した東京地裁民事交通訴訟研究会編「別冊判例タイムズ38号」の認定基準を用いて決めることが一般的です。

しかし、交通事故の事案は千差万別であり、必ずしも上記文献が示すケースに当てはまるものではありません。個別事情によっては、同文献記載の認定基準を単純に用いることができないケースもあります。

例えば、追突事故は原則として追突車の過失が100%となる事案ですが、追突車に事故を避けられない事情があったことを立証し、追突された側の過失が100%となった事例もあります。

過失割合に納得できない場合は、自らの主張を根拠付ける事件関係資料を収集しましょう。事故状況が分かる写真やドライブレコーダーの映像などの証拠を保存しておくことで、相手方の主張よりも有利な過失割合が認められる可能性は十分あります。

交通事故に詳しい弁護士に相談する

事件関係資料の収集や、保険会社への対応に不安がある場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

事故後の示談交渉はもちろん、巻き込み事故で怪我をした場合の傷害慰謝料(入通院慰謝料)の請求や、重い後遺症を負ったときの等級認定なども、弁護士に一任できます。

事故後の対応に時間を取られたくない方や、治療に専念し、できるだけ早く日常生活に戻りたい方は、弁護士への相談・依頼をおすすめします。

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まとめ

巻き込み事故は、左折時に最も起きやすく、重症・死亡事故につながる可能性のある危険な事故です。巻き込み事故の基本過失割合は、車(四輪車)やバイクなどの車種を問わず、基本的に巻き込んだ側の方が高くなりますが、事案ごとの個別事情によって、基本過失割合が修正されるケースもあります。

巻き込み事故の示談交渉なら、弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。弊所では、事故に遭われた方が納得できるように、事件関係資料を精査し、法的根拠に基づいた主張を行い、適切な賠償獲得に向けて尽力いたします。

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】