交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するにあたって、弁護士費用がいくらかかるのかという点は多くの方が気にされるところだと思います。
弁護士に依頼する場合、着手金や報酬金、その他実費などの費用がかかります(時間制報酬(タイムチャージ方式)を採用している弁護士もいますが、着手金・報酬金方式が一般的ですので、以下では、この方式に沿って説明します。)。しかし、加入している自動車保険に弁護士費用特約(弁護士特約)が付いていれば、費用負担ゼロで示談交渉を依頼できるかもしれません。
この記事では、弁護士費用特約の使い方や同特約を用いて弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
- 弁護士費用特約の一般的な補償上限額は300万円程度
- 自動車保険に付帯する特約であっても、基本的には弁護士は自由に選べる
- 弁護士費用特約のみを用いる場合、翌年度の保険料が上がることはない

交通事故で役立つ弁護士費用特約とは?
交通事故に遭ったとき、使い方を知っていると便利なのが弁護士費用特約(弁護士特約)です。弁護士費用特約は、主に自動車保険に付帯しており、交通事故の示談交渉などで弁護士に相談・依頼するときに利用できます。
弁護士費用特約の約款で定められた補償範囲内であれば、弁護士費用の負担はありません。
弁護士費用特約の概要
弁護士費用特約とは、交通事故などの被害に遭った方が、損害賠償請求について相談・依頼するときにかかる法律相談費用や依頼費用を保険会社に補償してもらえる特約です。
弁護士費用特約は、日常生活・自動車事故型と自動車事故型の2種類に分かれており、それぞれ補償範囲が異なります。
弁護士費用特約の種類 | 補償範囲 |
---|---|
日常生活・自動車事故型 | 自動車事故に加えて、日常生活における偶発的な事故で被害者になった場合 |
自動車事故型 | 自動車事故で被害者になった場合のみ |
例えば、日常生活・自動車事故型の弁護士費用特約であれば、自分の持ち物が盗難に遭った場合や、他人の飼い犬に噛まれた場合などの日常的な事故においても、弁護士費用の補償を受けられる可能性があります。
弁護士費用特約の補償上限額
弁護士費用特約には、保険会社ごとの約款により、補償上限額が定められています。補償上限額は保険会社によって異なりますが、1回の事故につき、弁護士費用(着手金・報酬金など)の上限は300万円、法律相談費用の上限は10万円と定められていることが一般的です。
弁護士費用特約の対象者
弁護士費用特約の対象者となるのは、一般的に以下の方です。
- 記名被保険者(車の主な使用者として、自動車保険の契約時に申告した方)
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者またはその配偶者と同居している親族の方
- 記名被保険者またはその配偶者と別居している未婚の子ども
- 契約している車の同乗者
- 契約している車の所有者(その車が被害に遭った事故のみ利用できるケースが一般的)
このように、弁護士費用特約は、加入していれば記名被保険者以外の方も一定の範囲で利用できます。補償の対象となる方について詳しく知りたい方は、保険会社の約款をご確認ください。
弁護士費用特約を用いて依頼するメリット
交通事故の示談交渉などで、弁護士費用特約を用いて弁護士に依頼するメリットは4つあります。
- 費用倒れを防止できる
- 賠償金の増額を期待できる
- 早期解決につながる
- 弁護士は自由に選べる
費用倒れを防止できる
1つ目のメリットは、費用倒れを防止できるという点です。
費用倒れとは、弁護士に支払った費用が加害者から支払われる損害賠償額を上回ることを指します。費用倒れが起きると、交通事故の被害者であるにもかかわらず収支が赤字になり、実質的に補償を受けられないという事態に陥ってしまいます。
しかし、弁護士費用特約を利用した場合、補償の上限額は一般的に300万円ですので、多くのケースで費用倒れが起きるリスクは大幅に減少します。
賠償金の増額を期待できる
2つ目のメリットは、賠償金の増額が期待できるという点です。
交通事故の損害賠償額(慰謝料)は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3つの基準のいずれかで計算されますが、過去の裁判例を参考に賠償額を決める弁護士基準(裁判基準)を用いると、前2者の基準を用いた場合と比べて、慰謝料額は高額になりやすいといえます。
弁護士に依頼した場合、原則として弁護士基準に基づいて損害額を計算しますので、手厚い補償を受けることが可能になります。予算の面で弁護士への依頼を躊躇している方も、弁護士費用特約を利用することにより、着手金・報酬金などの費用負担を抑えることができます。
トラブルの早期解決につながりやすい
3つ目のメリットは、トラブルの早期解決につながりやすいという点です。
事故後の対応には、多大な時間や労力を要します。また、相手方の保険会社と交渉するには、一定の専門的知識が必要になりますが、この知識を習得することは簡単ではありませんし、専門的な知識がない状態で交渉しても、いたずらに時間が過ぎるだけという事態に陥りかねません。
弁護士費用特約を利用し、弁護士に事故後の対応を依頼すれば、こうした時間と労力(手間)を節約できますし、トラブルの早期解決も期待できます。
弁護士は自由に選べる
4つ目のメリットは、弁護士を自由に選べるという点です。
弁護士費用特約は、そのほとんどが自動車保険に付帯するサービスですので、「保険会社が指定した弁護士を利用しなければならない」と誤解しておられる方は多いと思います。
しかし、実は弁護士費用特約を利用する場合でも、基本的には依頼する弁護士を自身で選ぶことができます(ただし、保険会社への確認は必要ですので、依頼したい弁護士に保険会社の担当者や連絡先を伝えて確認してもらうのがよいでしょう)。
弁護士費用特約を用いるデメリットはとくにない
弁護士費用特約を用いるデメリットは、基本的にありません。
「弁護士費用特約を利用すると保険等級(ノンフリート等級)が下がるのではないか」と懸念される方は一定数おられますが、弁護士費用特約のみを用いる場合、ノンフリート等級への影響はありません。
そのため、翌年度の保険料が上がることなく、弁護士に事故後の対応を依頼できます。
弁護士費用特約の使い方を4ステップで徹底解説

弁護士費用特約は、以下の4つのステップで利用することが可能です。
- 弁護士費用特約が付いているか確認する
- 保険会社へ連絡する
- 依頼する弁護士を探す
- 再び保険会社へ連絡する
法律事務所によっては、弁護士費用特約の利用に関する保険会社とのやりとりを担当弁護士が代わりに行う場合もあります。
弁護士費用特約が付いているか確認する
まずは、加入している自動車保険に、弁護士費用特約が付いているかどうかを確認しましょう。特約の有無や補償内容は、保険契約の約款(ご契約のしおり)又は任意保険証券(自動車保険証券)をご参照ください。
自身の自動車保険に弁護士費用特約が付いていない場合であっても、家族の自動車保険に付帯する弁護士費用特約を利用する余地はありますし、自動車保険の他にも、火災保険や医療保険、バイク保険、クレジットカードのオプションなどに、弁護士費用特約が付帯している場合があります。
保険会社へ連絡する
ほとんどの保険会社は、弁護士費用特約の利用にあたって、本人が事前に連絡することを条件としています。弁護士費用特約が付いているか確認したら、保険会社の担当者に弁護士費用特約を利用したいという意思を伝えましょう。
交通事故に遭った場合、事故発生についてできるだけ早く保険会社に伝えることが望ましく、その際に弁護士費用特約が付いているかどうかを確認しておくと、依頼したいと思ったときにスムーズに手続できます。
依頼する弁護士を探す
弁護士費用特約を利用する旨を保険会社に伝えたら、事故後の対応を依頼する弁護士を探しましょう。
交通事故の示談交渉では、交通事故に関する専門知識と経験に基づく交渉力が重要になります。そのため、交通事故案件の実績が豊富な法律事務所を探して相談するとよいでしょう。
再び保険会社へ連絡する
相談・依頼する弁護士を決めたら、保険会社に連絡して、その弁護士が所属する法律事務所名、弁護士の名前、連絡先(法律事務所の電話番号)を伝えましょう。その後に、弁護士と委任契約書を取り交わして委任契約を締結し、再び保険会社に連絡して、弁護士費用特約を用いて弁護士に依頼したことを報告してください(依頼した弁護士にこの報告をお任せすることもできます。)。
なお、法律事務所の中には、委任契約書を取り交わす前に保険会社と事前協議し、弁護士費用について話し合うところもあります。その場合は、依頼する前に、保険会社の担当者・連絡先に関する情報を弁護士に知らせて、連絡をとってもらいましょう。
弁護士費用特約を利用した方がよいケース
弁護士費用特約の利用を積極的に検討した方がよいケースは、以下の3つです。
- 被害が小さな事故の場合
- 相手が保険に入っていない場合
- もらい事故の場合
特に、もらい事故の場合(追突事故など、当方に過失がない場合)、自身の加入する保険会社の担当者による示談代行を利用することはできませんので、弁護士費用特約を利用し、弁護士に問題解決を依頼するメリットは大きいといえます。
被害が小さな事故の場合
費用倒れになりやすいのが、交通事故による被害が比較的小さいケースです。一般的に、物損事故では、人身事故に比べて被害額が低廉になりやすい傾向にあります。
このようなケースでは、弁護士に依頼すると費用倒れとなる可能性が高くなりますが、過失割合や損害額を巡って争いにあることは少なくありません。そのため、弁護士特約を利用して依頼するメリットは大きくなります。
ただし、費用倒れとなるかどうかは個別の事案によって異なりますので、弁護士特約が付いていない場合であっても、事故の相手方との交渉に悩んだときは、まずは弁護士にご相談してみましょう。
相手が保険に入っていない場合
相手方が自動車保険(任意保険)に加入していない場合も、弁護士費用特約を利用するメリットは大きいといえます。無保険車との事故には、以下のような問題があるからです。
- 相手方に資力がない場合、十分な賠償金を受け取れない可能性が高い
- 相手方本人と交渉することになるため、示談交渉が難航しやすい
このように相手が任意保険に加入していない場合、十分な賠償を受けることができないおそれ(賠償金を回収できないおそれ)があるので、弁護士に依頼しても費用倒れとなる可能性が高くなります。しかし、弁護士費用特約を利用できるのであれば、費用倒れとなることを気にせずに安心して依頼できます。
もらい事故の場合
もらい事故とは、「駐車場で停車中に車をぶつけられた」「信号待ちの間に追突された」など、被害者側にまったく責任がない被害事故です。
自動車保険には、保険会社による示談代行サービスが付いています。しかし、もらい事故の場合、過失割合が10対0となるため、弁護士法第72条により、示談代行サービスを利用できません。
すなわち、もらい事故に遭ったら、自分自身で加害者側の保険会社と示談交渉を行うことになり、手間と時間がかかってしまいます。また、自ら示談交渉を行うことよる精神的な負担も軽視できません。そのため、弁護士費用特約に加入している場合は、弁護士に示談交渉を任せるとよいでしょう。
(参考:e-Gov法令検索『弁護士法』)
弁護士費用特約を利用できないケース
事故の状況によっては、弁護士費用特約を利用できないケースもあります。
- 当方に故意又は重大な過失がある場合
- 自然災害による事故の場合
- 事業用の車を運転していたときの事故の場合
保険会社によっては利用できることもあるので、保険契約の約款を確認しましょう。
故意又は重大な過失がある場合
1つ目は、事故発生について、当方に故意又は重大な過失がある場合です。
例えば、無免許運転や飲酒運転、犯罪行為などが記名被保険者(またはそのご家族)の故意または重大な過失による事故の典型例です。このような場合、弁護士特約を利用できません。
ただし、まずは保険会社に弁護士特約利用の可否について確認することが無難といえます。
自然災害による事故の場合
2つ目は、交通事故ではなく、自然災害が原因で起きた事故の場合です。
例えば、地震や噴火、これらを原因とする津波により発生した損害は、原則として補償対象になりません。弁護士費用特約だけでなく、保険料の支払い(車両保険など)そのものが対象外です。
なお、台風・高潮・洪水などで車が水没したり、流されたりした場合に車両保険を利用できることがありますので、保険会社への確認は怠らないようにしましょう。
事業用の車を運転していたときの事故の場合
3つ目は、事業用の車を運転していたときに発生した交通事故です。
保険会社によっては、事業用の車を弁護士費用特約の対象外としているケースがあるので、注意しましょう。
まとめ
弁護士費用特約は、約款で定められた範囲内で、弁護士費用や法律相談費用の補償を受けることのできる特約です。弁護士費用特約を用いるデメリットは基本的にありません。弁護士費用特約を利用しても、翌年度のノンフリート等級が下がり、保険料が上がる心配はないので、担当弁護士と相談の上で特約の利用を検討しましょう。
琥珀法律事務所では、交通事故に遭われた方が日常生活に戻れるよう、誠心誠意サポートいたします。弁護士費用特約の利用も可能なため、ぜひ弊所にご相談ください。

【経歴】
2008年 | 弁護士登録 |
2010年 | 主に労働事件を扱う法律事務所に入所 |
2011年 | 刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる |
2012年 | 琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当 |
2014年 | 青梅市役所法律相談担当 |
2015年 | 弁護士法人化 代表弁護士に就任 |
2022年 | 賃貸不動産経営管理士試験 合格 2級FP技能検定 合格 宅地建物取引士試験 合格 |
2024年 | 保育士試験 合格 (令和5年後期試験) 競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験) |
【その他のWeb活動】
- ブログ:弁護士川浪芳聖の「虎穴に入らず虎子を得る。」
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