交通事故で負ったけがのが治療を続けても完治せず、何らかの障害が残った場合、後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。一般的に、交通事故の人身損害に関する示談交渉は、後遺障害等級認定の審査結果が出た後に開始されるので(完治した場合や、完治していなくても後遺障害等級認定を申請しない場合を除きます。)、結果が出るまでにどのくらいの期間がかかるのか、あらかじめチェックしておきましょう。
本記事では、後遺障害等級認定に要する期間の目安や、期間が長くなる理由、長引いた場合の対処法やリスク、注意点について解説します。
- 書類に不備・不足がある場合や、経過観察が必要な障害がある場合は認定に2か月以上の時間を要することもある
- 人身損害に関する損害賠償請求権は5年で消滅時効にかかるため、認定が長引くと時効のリスクが高くなる
- 弁護士に相談すれば認定が長引いた場合の対処や後遺障害以外の示談交渉を進めるのに役立つ

後遺障害等級認定の期間はどのくらい?

後遺障害等級認定の申請を行うと、提出された後遺障害診断書などの書類を基に、損害保険料算出機構の自賠責損害調査事務所が認定の可否を審査します。
それでは、申請から結果が出るまでに、どのくらいの期間がかかるのでしょうか。
一般的には1~2か月程度で認定される
損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所では、提出された書類を基に、認定申請のあった後遺障害について、以下の項目等を調査します。
- 事故発生状況
- 後遺障害診断書の内容
- 事故と後遺症の因果関係
基本的には提出された書類に基づいて審査されますが、不明な点がある場合や、より詳しい情報が必要と判断された場合には、事故当事者や病院への照会、事故現場の調査などが行われることもあります。
以上のような調査が実施されるので、申請から認定結果が通知されるまでには一般的に1~2か月程度の期間がかかるといわれています。
2か月以上かかる場合もある
後遺障害等級認定に要する期間は1~2か月程度と説明しましたが、状況によっては2か月以上の日数を要することもあります。
実際、損害保険料率算出機構が公表しているデータによると、2022年度における自賠責損害調査事務所による後遺障害の損害調査所要日数は30日以内に終了しているケースが73.7%と最多を占める一方、31日~60日の割合が14.0%、61日~90日の割合が6.7%、90日超が5.6%となっています。
(参考:損害保険料率算出機構『2023年度版自動車保険の概況』p39)
後遺障害認定の期間が長くなる理由
後遺障害認定の申請から結果が出るまでの期間が長くなる理由は、大きく分けて3つあります。多くは提出書類に関することですが、後遺障害の内容によっては経過観察に伴って期間が長引くこともあります。
ここでは後遺障害認定の期間が長くなる主な理由について詳しく解説します。
提出書類に不備・不足がある
前述のとおり、後遺障害等級認定の審査は提出書類を基に実施されるので、書類に不備・不足があると十分な調査を行うことができません。書類に不備・不足があった場合、書類の追完(再提出)や追加を求められるため、必然的に審査に時間を要することになってしまいます。
なお、後遺障害等級認定の申請に必要な書類は複数ありますが、最も重要なのは後遺障害診断書です。
後遺障害診断書には、交通事故の発生日(受傷日)や入通院期間、傷病名、既存の障害、自覚症状、他覚症状、検査結果などの情報が記載されますが、このうち自覚症状と他覚症状は後遺障害認定の審査で特に重視されますので、詳細に記載してもらうことが大切です。
医師の対応が遅れている
後遺障害認定の審査において、提出された書類だけでは認定の可否や等級の決定が難しいと判断された場合、診断書を作成した医師に対して、より詳細な医療情報の照会が求められることは少なくありません。
このような医療照会は、電話ではなく書面で行われ、審査機関の質問に対して医師が回答する流れになります。医師は審査機関から郵送されてきた医療照会請求の書類に回答を記載し、返送することになりますが、医師が他の業務に追われる等して多忙な場合、返送に時間を要することがあります。
医療照会の返答が届くまでは審査も一時中断となるので、医師の対応の遅れは、そのまま後遺障害認定の審査の遅れにつながります。
高次脳機能障害などがある
交通事故が原因で脳が損傷され、一定期間以上にわたって意識の障害が続く状態を高次脳機能障害といいます。高次脳機能障害はCTやMRIなどの画像診断によって脳損傷が認められる他覚症状のある障害です。
ただ、後遺障害認定を受けるには、さらに事故発生の前と後で日常生活などにどのような変化が起こったのかを立証する必要があります。例えば、記憶障害や集中力障害、遂行機能障害、判断力の低下といった認知障害の他、攻撃性の向上や暴力、被害妄想といった人格変化が挙げられます。
こうした症状は一定期間経過観察を行った上で、医師や被害者の家族、介護者などに状況を報告してもらうことになるため、他のケースに比べると認定までには長い期間が必要になります。
後遺障害等級認定の期間が長くなるときの対処方法
人身損害に関する示談交渉は、後遺障害等級認定の結果が出た後に開始されます。そのため、認定の期間が長引くと示談交渉の開始も遅くなり、結果的に損害賠償金を確保するまでに相当な時間がかかるということになってしまいます。
上記のような事態に陥ることを避け、なるべく早めに示談交渉を開始して賠償金を受け取りたいと思ったら、認定が長引きそうな段階で以下のような対処を検討しましょう。
保険会社へ状況を確認する
事前認定を選択した場合は、まず相手方の任意保険会社に連絡し、進捗状況を確認しましょう。何らかの理由で書類の準備・提出が遅れている場合、被害者側から問い合わせることで優先的に手続を行ってくれる可能性があります。
なお、相手方の任意保険会社に進捗を問い合わせる場合は、事故の担当者の名前と自身の名前、交通事故発生日を伝えた上で、後遺障害等級認定の申請について尋ねたいことがあると伝えれば、スムーズに担当者に取り次いでもらえます。担当者が不在の場合は折り返し連絡するようお願いしておくと安心です。
なお、既に保険会社が審査機関に書類を提出済みである場合は、保険会社としてもそれ以上の対応はできないので、審査が終了するのを待つことになります。
被害者請求に変更する
滅多にないケースですが、相手方の保険会社に連絡して催促しても、なかなか対応してもらえず、書類の準備・提出が遅れているという場合には、事前認定から被害者請求に切り替えることを検討してもよいでしょう。
被害者請求では、書類の準備から提出までを全て被害者自身が行うことになるので手間がかかりますし、必要書類を漏れなく揃えることは容易ではありませんが、保険会社の対応があまりに遅いという場合には、時短になることもあります。また、被害者請求では、書類を自身で一から準備するので、申請前に書類の内容を精査してから提出できるという利点もあります。
ただし、提出した書類に不備・不足があると再提出が必要になり、結果として、事前認定よりも余計に時間を要するという事態もあり得ますので、注意が必要です。書類の確認・精査には一定の知識が必要になることを念頭に置いて行動すべきです。
弁護士に相談する
後遺障害等級認定の期間が長引いて困っている場合、弁護士に相談するのも一つの方法です。交通事故に詳しい弁護士であれば、後遺障害等級認定に関しても豊富な知識と経験を備えていますので、書類の不備や不足を解消するのに役立つ助言を得ることができます。
また、弁護士に依頼すれば、自身に代わって後遺障害等級認定の手続を行ってもらえるので、書類の不備や不足を円滑に解消できる可能性が高くなります。
さらに、後遺障害等級認定を受けた後の示談交渉も一任できるので、加害者とのやり取りによる精神的な負担の軽減にも役立つといえます。
後遺障害認定の期間が長いことによるリスク
後遺障害認定の期間が長引くと、損害賠償請求権が時効消滅失効するリスクや、家計が逼迫して日常生活に支障が出る可能性が高くなります。
特に損害賠償請求権の時効消滅失効は、損害賠償金の受け取りに関わる大きなリスクなので、要注意です。ここでは後遺障害認定が長引くことによって生じるリスクを2つご紹介します。
損害賠償請求権の時効が迫ってくる
人身損害に関する損害賠償請求権は永続的に行使できるものではなく、被害者またはその法定代理人が損害と加害者を知ったときから5年経過すると、消滅時効にかかります。(物的損害に関する損害賠償請求権の消滅時効期間は5年ではなく、3年ですので注意しましょう。)
後遺障害等級が認定された場合、当該後遺障害に関する消滅時効期間は症状固定日の翌日から進行しますので、何らかの理由で数年にわたって放置しない限り、消滅時効にかかることは滅多にないと思います。しかし、後遺障害等級認定を申請しても、審査の結果、認定されなかった場合、消滅時効期間は症状固定日の翌日からではなく、交通事故が発生した日の翌日から進行することになります。すなわち、長年にわたって通院を続け、その後に後遺障害等級認定を申請したものの、審査に時間を要した挙句、認定されなかったときには、消滅時効期間を徒過してしまうリスクが出てきます。
消滅時効期間を徒過することだけは避けなければなりませんので、早めに対処することが大切です。
(参考:e-Gov法令検索『民法』)
生活に影響が出る
後遺障害が残ると仕事に支障を来すケースは少なくありません。場合によっては、長期休職や退職(自営業の方なら休業や廃業)に追い込まれてしまうことも考えられます。
定期収入が減少したことに加え、後遺障害で難しくなった日常生活のサポートを介護サービスでまかなったり、入通院にかかる諸費用(通院にかかる交通費や入院中に使用するものの購入費など)を支払ったりすると、家計が逼迫し、生活が苦しくなります。また、治療費は、事故の相手方保険会社が医療機関に対して直接支払ってくれるのが一般的ですが(これを「一括対応」といいます。)、通院が長期にわたると、症状固定前に支払いを打ち切られてしまうことがあります。そうなると、自己負担で通院を続けざるを得なくなりますので、ますます生活は苦しくなってしまいます。なお、将来に対する不安から精神的な負担が生じることも見逃せません。
後遺障害等級認定の審査に時間を要すると、その分、賠償金の受け取りも遅れてしまうため、家計が逼迫し、自身や家族の生活に支障を来す可能性が高くなります。
後遺障害等級認定の期間に関する注意点
後遺障害等級認定の期間が長引いている場合は、前述した対処方法を実践するとともに、後遺障害以外の示談交渉や、時効の完成猶予・更新の手続を進めていきましょう。
また、認定が長引いているときは気が焦ってしまいがちですが、示談交渉では冷静な対応を心がけることが大切です。
ここでは後遺障害認定の期間について注意すべきポイントを3つご紹介します。
示談交渉を焦らない
後遺障害等級認定の審査期間が長引いた場合、消滅時効のリスクや賠償金支払いの遅れなどを心配して、焦って示談交渉を進めてしまいがちです。しかし、早めに解決したいからといって加害者側からの提案を鵜呑みにすることはお勧めできません。事故状況やそれを前提とした過失割合に争いがある場合、労働能力喪失期間に争いがある場合等には、辛抱強く交渉することが重要ですからです。
示談は一度成立させてしまうと、原則としてその内容を覆すことはできません。後になって後悔することがないように、自身が納得できるまで焦らずに交渉しましょう。
後遺障害以外の示談交渉を進める
後遺障害等級認定が長引いている場合は、少しでも時間を短縮するために、後遺障害以外の事項について示談交渉を進めておきましょう。
例えば、過失割合は、事故状況に照らして判断されるものですので(事故状況を前提に交渉して決定されるものですので)、あらかじめ、過失割合に関する交渉を行い、取り決めておくことは解決までの時間短縮に役立ちます。
具体的にどのような点について示談交渉を進めればよいのかわからない、示談交渉を自身で進める自信がないという場合には、弁護士に相談して、適切なアドバイスを提供してもらうことを検討しましょう。
時効の完成猶予・更新の手続を行う
損害賠償請求権の消滅を防ぐために、時効の完成猶予(中断・停止)や更新の手続を行っておきます。時効の完成猶予とは、一定の完成猶予事由が生じた場合に、時効の完成が一定期間、先延ばしにされる制度のことです。また、時効の更新とは、一定の更新事由が生じた場合に、時効の進行がいったんリセットされ、またゼロから時効期間が進行することをいいます。時効の完成猶予、更新については民法が規定していますが、下記の3つ方法がよく用いられるところです。
- 加害者と「協議を行う旨の書面による合意」をする。
- 訴訟提起、調停申立てをする
- 内容証明郵便で加害者に支払いを要求する(催告)
上記方法について、専門的な知識を有している場合を除き、自身で行うことは簡単ではありませんので、弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
後遺障害等級認定を申請してから認定結果が通知されるまでには、一般的に1~2か月程度の時間を要します。ただ、種々の事情により、2か月以上の時間がかかることもあります。
入通院期間が長期化した状況において、後遺障害等級認定の期間が長引くと、損害賠償請求権の消滅時効期間を徒過するリスク、生活に支障を来すリスクが高まりますので、保険会社に進捗を尋ねる、被害者請求に変更する、弁護士に相談するなどの対処を行うようにしましょう。
琥珀法律事務所では、交通事故の補償や後遺障害等級認定などの問題を数多く取り扱ってきた実績があります。事案ごとの個別事情を丁寧にヒアリングし、できる限り希望に沿った解決方法やアドバイスを提供することを心がけています。
後遺障害等級認定の審査が長引いていて不安な方や、適切な対応方法を知りたい方は、お気軽に弊所までご相談ください。

【経歴】
2008年 | 弁護士登録 |
2010年 | 主に労働事件を扱う法律事務所に入所 |
2011年 | 刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる |
2012年 | 琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当 |
2014年 | 青梅市役所法律相談担当 |
2015年 | 弁護士法人化 代表弁護士に就任 |
2022年 | 賃貸不動産経営管理士試験 合格 2級FP技能検定 合格 宅地建物取引士試験 合格 |
2024年 | 保育士試験 合格 (令和5年後期試験) 競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験) |
【その他のWeb活動】
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