物損事故でも慰謝料をもらえた4つの事例について詳しく紹介

物損事故でも慰謝料がもらえた4つの事例

交通事故の損害が物だけに生じた場合、物損事故扱いとなります。このような物損事故においては、いかなるケースでも慰謝料を請求できないと思い込んでいる方は多いと思います。

しかし、物損事故でも慰謝料請求が認められたケースは存在します。「物損事故だから慰謝料はもらえないだろう」と最初から諦めたりせず、どのような事例で慰謝料をもらえるのか、慰謝料をもらうためにはどのような対応が必要なのかを事前にチェックしておきましょう。

この記事では、物損事故における慰謝料の扱いや、物損事故における損害賠償の範囲、慰謝料請求が認められた事例、慰謝料を確保するための対応方法についてご紹介します。

 
  • 物損事故では基本的に慰謝料請求は認められないが、多大な精神的苦痛が生じたことを証明することで認められることもある
  • 物損事故として届け出た後、ケガが判明した場合は慰謝料を請求可能
  • 慰謝料増額を目指すなら計算基準の高い弁護士に依頼するのがおすすめ
 
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

物損事故でも慰謝料はもらえる?

物損事故では、原則として損害を受けた物の修理費や買い替え費の実費のみが補償されるので、手元にはお金がほとんど残りません。慰謝料をもらえれば手元にお金が残りますが、物損事故で慰謝料請求が認められることはあるのでしょうか。

ここでは、物損事故と人身事故の違いや、物損事故で慰謝料がもらえるか否かについて説明します。

物損事故と人身事故の違い

物損事故と人身事故の違いは、事故で人の生命や身体にかかわる損害が生じたかどうかです。

事故による損害が、車両や建物などの物だけだった場合は物損事故扱いとなり、物の修理費や買い替え費などが補償されます。

一方の人身事故とは、人に傷害・後遺障害・死亡などの損害が生じた事故のことです。人身事故の場合、加害者は治療費や慰謝料、休業損害、逸失利益などの賠償責任を負う他、罰金・懲役などの刑事処分や、違反点数の加算にともなう免許停止・免許取消などの行政処分を受ける場合があります。

物損事故では基本的に慰謝料はもらえない

慰謝料とは、被害者が負った精神的損害を補償するお金のことです。交通事故における慰謝料は、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3つがあります。いずれも被害者のケガや後遺障害、死亡を対象としています。

そのため、人の身体や生命に直接被害が及んでいない物損事故では、基本的に慰謝料は支払われません。「大切な物を壊されて悲しかった」という気持ちがあっても、物損事故では原則として慰謝料請求は認められないので注意しましょう。

物損事故における損害賠償の範囲

物損事故の被害者は、加害者に対して、事故によって損害を受けた物の損害賠償を請求できます。

損害賠償の範囲は事故の状況によって異なります。壊れた物の修理費用の他、評価損や代車費用(レンタカー代)、休車損害、損壊した物の修理費などが主な損害といえます。

ここでは、物損事故における損害賠償の範囲を5つご紹介します。

修理費用

修理費用は、物損事故によって損傷した物を修理するために掛かった費用です。例えば、接触事故によって凹んだ車のバンパーや、衝撃によって破損したスマートフォンなどの修理代がこれに該当します。

補償される修理費用は、実際の修理にかかった実費です。ただし、修理費用が事故発生前の物の時価相当額を下回ることが条件です。修理費用が時価相当額を上回る場合は、原則として時価相当額の賠償しか認められません。

なお、積載物に関しては、その事故と損傷の因果関係を明確にしないと加害者側から「事故以前より壊れていたのでは?」と疑われることがあります。そのため、事故によって積載物が壊れた場合は、車内の様子をスマートフォンやカメラなどで撮影し、証拠を残しておくとよいでしょう。

評価損

評価損とは、事故によって車両が損壊した場合、修理しても事故前の価格よりも修理後の価格が下回るときの損害を指します。軽微な事故であれば、修理することで事故前の価格と同等の価格を維持することができますが、例えば、車両のフレーム等の骨格が損傷したケースなどは修復歴ありという扱い(事故車扱い)になりますので、修理しても事故前の価格には戻りません。

事故車は、通常の車よりも査定額が下がりますので、将来的にその車を下取り・売却した際に損害を被ることになります。そのため、事故前の車の時価と事故後(修理後)の時価の差分が評価損として認められることになります。

なお、評価損はあくまで修復歴があることで生じる損害を意味するものなので、修理を行わない全損の場合、評価損を請求することはできません。

代車費用

代車費用とは、事故車を修理に出している間に代車を使った場合にかかる費用です。代車費用も修理費用同様、実費が補償対象です。しかし、事故車よりも上位のクラスの代車を使用した場合や、修理期間よりも長く代車を使用した場合は補償されませんので、注意しましょう。

例えば、事故車が軽自動車の場合、同種の軽自動車を利用すれば補償対象となります。しかし、ミニバンやワンボックスといった大きな車や高級車を代車として利用した場合、差額は自己負担となります。

長期間にわたり代車を使用した場合も、超過分は自己負担となるので要注意です。

休車損害

休車損害とは、事故車を稼働させられなかったことによって発生した営業損害のことです。例えば、タクシーで事故に遭った場合、車両を稼働させられなかった分(日数)だけ収益が減ってしまうため、その収益減を休車損害として請求できます。

ただし、事故車の代わりに予備車を代替使用したことによって損害が生じなかった場合は、休車損害は発生しなかったとみなされるので注意しましょう。

また、休車損害はあくまで緑ナンバーを付けた営業車両のみが対象です。自家用の白ナンバー車では休車損害は請求できないことを覚えておきましょう。

損壊した物の修理費

交通事故によって損壊した建物や設備などを修理するための費用です。例えば、車両が家屋や塀などに衝突してこれらの物を壊してしまった場合、その修理費は当然に補償されます。

事故によって建物・設備が全壊した場合は、使用年数に応じて減価償却し、その時価額が損害額として補償されます。また、家屋を修理・建て替えする期間中、住民が仮住まいを利用した場合は、その家賃も損害として認められることがあります。

ただし、修理中でもその住まいを利用可能であったと判断された場合、仮住まい費用は補償対象外となってしまうこともあるので要注意です。

物損事故でも慰謝料がもらえた4つの事例

物損事故では、原則として慰謝料の請求は認められません。しかし、「建物が壊れて生活が困難になった」、「家族同然のペットが亡くなった」など、一部のケースに関しては、精神的損害が生じたと認められて慰謝料が支払われることもあります。

ここでは物損事故でも慰謝料がもらえた事例を4つご紹介します。

建物が損壊して生活ができなくなった

加害者の車両が家に衝突し、外壁や室内などに多大な損害が出た場合、大規模なリフォームが必要になります。

リフォームの間、住民は仮住まいで生活することになりますが、慣れない場所で不便やストレスを感じたり、勤務先や通学先が遠くなって通勤・通学の負担が大きくなったりした場合、生活利益が侵害されて、精神的な苦痛が生じたと認められ、慰謝料が支払われる可能性があります。

家族同然のペットが死亡した

犬や猫などのペットは、どれほどの愛着があっても、法律上は物として扱われます。そのため、事故によってペットが死亡した場合でも、人に損害がなければ物損事故扱いとなります。

しかし、飼い主にとってペットは家族同然の大切な存在であり、たとえ損害賠償金で同じ犬種・猫種を購入したとしても、以前飼っていたペットの代わりにはなりません。

実際、ペットロスによって心身に異常を来してしまうケースも多く、ペットが死亡した事故については例外として慰謝料が認められたケースもあります。

人がケガをしたり、亡くなったりした場合に比べると賠償額は少額にとどまりますが、ペットがケガまたは死亡したときは慰謝料の請求を検討してみるとよいでしょう。

芸術作品などが壊れた

絵画や骨董品などの芸術作品については、この世に同じ物が二つとなく、代替がきかない貴重品です。

買い替えが不可能であるのはもちろん、修理しても芸術作品の価値そのものが下がってしまいますので、大きな精神的苦痛を受けたとみなされ、慰謝料が支払われるケースもあります。

ただし、慰謝料請求が認められるためには、損害によって精神的苦痛が生じたことを客観的に証明しなければなりません。

例えば、制作期間が長期にわたり、かつ複雑な工程を経て作られた非常に思い入れのある作品であった場合や、プロの陶芸家である被害者が初めて制作した記念品だった場合などは、慰謝料の支払いが認められる可能性が高くなります。

怪我によって通院した

当初はケガをしていることに気が付かず、物損事故として届け出たものの、後日、体に痛みやしびれ、違和感などが生じたために医療機関を受診して治療を受けた場合は、人に対する損害が発生した事故とみなされ、入通院慰謝料などの慰謝料を請求できます。

ただし、事故からある程度の日数が経過すると、事故とケガの因果関係を証明するのが難しくなりますので(事故によってケガをしたと認めてもらえないおそれがありますので)、痛みや違和感を覚えたら速やかに医療機関を受診することが大切です。

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物損事故から人身事故への切り替え

当初は物損事故として届け出ていたものの、実際はケガを負っていた場合、人身事故への切り替えを検討することになります。

物損事故から人身事故への切り替えには書類の準備や警察での手続き、相手方の保険会社への連絡などいろいろな対応が必要になるので、基本的な流れを押さえておきましょう。

ここでは人身事故への切り替え手順を説明します。

病院で診断書を作成してもらう

物損事故から人身事故に切り替えるためには、事故でケガを負ったことを証明しなければなりません。そのためには、診察・治療を受けた医療機関で医師に診断書を作成してもらう必要があります。

診断書には以下のような項目を記載してもらいます。治療期間や症状などによって請求できる慰謝料額に差が出てくるので、正確に作成してもらうことが大切です。

 
  • 傷病名
  • 受傷部位
  • 治療開始日
  • 治癒日(治癒見込み日)
  • 検査結果
  • 今後の治療予定

なお、後遺症が残った場合は事後的に以下の項目の記載を含む後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。

 
  • 後遺症の部位・内容・程度
  • 自覚症状
  • 症状固定日

警察で人身事故へ変更手続きをする

人身事故に切り替えるためには、医師に作成してもらった診断書を警察に提出し、物損から人身への変更手続を行う必要があります。

なお、警察に行く際は事前に警察署へ連絡し、人身事故への変更を行いたい旨を伝えた上で、いつ来署すればよいのか、何を持参すればよいのかを確認しておくのが無難です。

一般的には、人身事故への切り替えには以下のものを用意します。

 
  • 診断書
  • 運転免許証
  • 車検証
  • 自賠責保険証
  • 印鑑

人身事故への変更手続について、特に期限は設けられていませんが、前述のとおり、事故から日数が経過するとケガと事故の因果関係を証明するのが難しくなることに注意しなければなりません。

人身事故であったかどうか判断するのは警察なので、事故によってケガをしたことを認めてもらえるよう、事故発生からおよそ10日以内を目安に手続きすることをおすすめします。

加害者の保険会社へ連絡する

物損事故と人身事故では、加害者の賠償範囲や賠償金額が大きく異なります。当然、物に関する損害だけに限定されない人身事故の方が賠償範囲は広くなり、賠償金額も多くなります。そのため、物損から人身への変更申請を行ったら、相手方の保険会社に人身事故に切り替えた旨を連絡しておきましょう。

連絡をしないまま人身事故として治療を続けていると、後から賠償請求を巡ってトラブルになる可能性もあるので、連絡を怠らないように気をつけましょう。

なお、加害者の任意保険会社に連絡した段階で、以降の治療費はその保険会社が支払ってくれる場合もあります。被害者が一時的に立て替える場合は領収書を忘れずに保管しておきましょう。

実況見分に立ち会う

人身事故になった場合、物損事故では行わなかった実況見分に立ち会う必要があります。実況見分では、事故当事者の立ち会いの下、警察が事故現場の状況や事故発生時の状況、事故車の状態の把握などを行います。

実況見分の内容は実況見分調書にまとめられ、事故の過失割合を決める際の判断材料となります。

また、実況見分後は、警察署に移動して聞き取り調査が行われます。その後、聞き取り内容を基に供述調書が作成されますので、内容に誤りがないかどうか、慎重に確認しましょう。もし曖昧な部分や間違っている部分があればその場で指摘して訂正してもらってください。最終的に、納得できたら署名押印します。

必要に応じて弁護士へ相談する

物損事故であっても例外的に慰謝料請求が認められるケースはあります。しかし、その判断は簡単ではありません。また、過失割合や損害の範囲について争いがあるケースでは、専門的な知識と経験に基づく裏付けがなければ、有利に示談交渉を進めることは困難です。

したがって、上記のようなケースでは弁護士に相談することを積極的に検討するとよいでしょう。

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まとめ

物損事故では基本的に慰謝料請求は認められませんが、家屋が壊れて生活ができなくなったり、家族同然のペットを失ったりした場合では、精神的苦痛が生じたとみなされて慰謝料請求が認められることがあります。

また、当初は物損事故として処理したものの、後日ケガをしていることが判明した場合、速やかに医療機関を受診して適切に治療を受けることで、慰謝料請求が可能になります。この場合の慰謝料の算定基準には、自賠責基準、保険会社基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、どの基準を採用するかによって慰謝料額が異なります。慰謝料の増額を希望する場合は、弁護士への依頼を検討してみましょう。

琥珀法律事務所では、依頼者様の事故状況や希望について丁寧にヒアリングし、事案ごとの個別事情に応じて最善な解決策を提案します。「物損事故で慰謝料を請求したい」「人身事故に変更したい」などの希望がある方は、ぜひ弊所までご相談ください。

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】