自賠責保険と任意保険のどっちを使うべき?判断基準について解説

自賠責保険と任意保険のどっちを使うべき?

自動車保険には、強制加入の自賠責保険と、任意加入の任意保険の2種類があります。どちらも被害者の損害を賠償するために用いられる保険ですが、交通事故に遭った場合、自賠責と任意保険のどちらを利用すべきか、また、どちらを利用できるのかという点について詳しく知らないという方は多いと思います。

本記事では、交通事故の被害に遭った際、自賠責保険と任意保険の利用関係はどうなるのかという点について、解説したいと思います。

あわせて、自賠責保険を使うべきケースや、2つの保険の違い、加害者へ賠償請求する際の流れなども説明します。

 
  • ひき逃げ等で加害者を特定できない場合は被害者側の人身傷害補償保険や車両保険を使うこともある
  • 自賠責保険では被害者の過失割合が7割未満であれば過失相殺が適用されない
  • 弁護士に依頼すれば示談交渉を一任できる上、慰謝料の算定基準が最も高い弁護士基準を利用できる
 
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

自賠責保険と任意保険のどっちを使うべき?

交通事故が発生した場合、被害者は加害者の保険を使って損害を賠償してもらうことになります。冒頭でも説明したとおり、自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類がありますが、加害者が任意保険に加入している場合は両方の保険を利用することが可能です。

ここでは事故によって生じた損害の賠償を受けるにあたって、どちらの保険を使うべきかについて解説します。

基本的には加害者側の任意保険を使うべき!

交通事故の賠償には、加害者が加入している任意保険を利用するのが基本となります。なぜなら、任意保険は自賠責保険で補償される範囲も含めて損害賠償金を支払うことができるからです。

なお、加害者の任意保険を利用した場合、任意保険会社が一括で保険金を支払った後、自賠責保険で補償される分(立て替え分)を自賠責保険会社に請求する仕組みになっています。

任意保険会社に一括払いしてもらえば、被害者は任意保険会社と自賠責保険会社の両方に請求する必要がないので、手続の手間を大幅にカットすることができます。

被害者側の任意保険を使うべきケース

交通事故では、加害者側の任意保険を利用するのが基本と説明しました。しかし、ひき逃げ事故で加害者を特定できない場合や、加害者が自賠責保険のみに加入している場合、あるいは全くの無保険だった場合(任意保険未加入、かつ、自賠責保険の期限が切れていた場合)は、相手方の任意保険を利用することはできません。

そのため、このようなケースでは、被害者が加入している任意保険を利用して補償を受けることを検討することになります。被害者側が利用する任意保険には以下のような種類があります。

 
  1. 人身傷害補償保険
  2. 搭乗者傷害保険
  3. 無保険車傷害保険
  4. 車両保険

このうち、1~3についてはノーカウント事故として扱われるため、次年度以降の保険の等級に影響しません(保険料は上がりません)。ただし、4の車両保険を利用すると、次年度以降の保険料が高くなってしまいます。

なお、被害者の加入する保険に上記の保険が付されていない場合には、政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)の利用を検討することになります。政府保障事業とは、自賠責保険または自賠責共済からの保険金の支払いを受けられない被害者を救済するための制度であり、ひき逃げ事故等の加害者を特定できないケースでよく利用されます。

任意保険ではなく自賠責保険を使うべきケース

交通事故では基本的に加害者側の任意保険を利用しますが、被害者側の過失割合が高い場合や、なるべく早めに賠償金を受け取りたいという場合、あるいは後遺障害認定を検討している場合などは、自賠責保険を利用した方がよいケースもあります。

ここでは、自賠責保険を使うべきケースについて説明します。

被害者側の過失割合が高い場合

任意保険の賠償額は、事故の過失割合によって決まります。

例えば、過失割合が加害者6:被害者4で、治療費等に10万円かかった場合、被害者側の過失割合4の部分は自己負担となるため、実際に請求できる賠償金は10万円×60%=6万円となります。

このように、事故の被害者側にも過失がある場合にその過失割合に応じて、賠償金が減額される制度のことを過失相殺といいますが、自賠責保険は、元々被害者保護を目的として設けられた保険であるため、被害者側に重大な過失がない限り、過失相殺は適用されない仕組みになっています。具体的には、被害者の過失割合が7割未満であれば過失相殺は適用されず、減額の対象になりません。

そのため、被害者側の過失割合が大きい場合(7割未満)は、任意保険ではなく自賠責保険を利用した方がよいケースもあります。

(参考:国土交通省『自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準』p7

早めに賠償金を受け取りたい場合

任意保険の賠償金は、原則として示談交渉が終了した後(示談成立後)に支払われます。裏を返せば、示談交渉開始前、あるいは交渉中は、原則として賠償金を支払ってもらうことができません(事案によっては、内払いに応じてもらえることもありますが、希望すれば必ず応じてもらえるというものではありません)。

一方、自賠責保険の場合、被害者が直接加害者が加入している自賠責保険会社に請求すれば(これを「被害者請求」といいます。)、示談成立前でも賠償金を受け取ることができます。

事故によって満足に働くことができず、当座の生活費に困っているなど、なるべく早めに賠償金を受け取りたい場合は自賠責保険の利用(被害者請求)を検討しましょう。

後遺障害等級認定を受けたい場合

交通事故によって負ったケガが治療しても完治せず、身体や精神に障害が残ってしまった場合、後遺障害の等級認定を受けられる可能性があります。

保険の利用そのものの話ではありませんが、後遺障害の等級認定を申請する方法には、相手方の任意保険会社に任せる事前認定と、被害者が直接自賠責保険会社に請求する被害者請求の2つがあります。前者の場合、必要な書類の大半の収集が任意保険会社任せになってしまうため、被害者自身は事前にその内容を精査することができないのに対し、後者の被害者請求の場合は、被害者自身が全ての書類を用意するので、あらかじめ内容を精査した上で提出することができます。

後遺障害認定の審査は提出された書類を基準に行われるため、書類をきちんと確認して請求できる被害者請求の方が準備万端で申請できるという利点があります。

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自賠責保険と任意保険の違い

強制保険である自賠責保険と、任意で加入する任意保険では、補償の範囲や補償限度額などに違いがあります。自賠責保険の他に、任意保険に加入するべきかどうか迷っておられる方は、二つの保険の特徴や違いをチェックしておきましょう。

ここでは、自賠責保険と任意保険の概要や補償限度額について解説します。

自賠責保険とは?

自賠責保険とは、交通事故の被害者を救済する目的で設けられた強制保険のことで、正式名称を自動車損害賠償責任保険といいます。

全ての自動車は、自動車損害賠償保障法の下、自賠責保険に加入することが義務づけられており、未加入のままでは自動車を運転することができません(自賠責保険に加入せずに車を運転すると、自賠法第86条の3の規定により、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金刑に処される可能性があります)。ただ、自賠責保険は必要最低限の補償を目的とした保険であるため、物損事故には適用されないこと、補償限度額が任意保険に比べて低いことなど、いくつかのデメリットがあります。

なお、自賠責保険の損害賠償の支払限度額は、事故の被害者1名につき以下のように定められています。

 
  • 死亡:最高3,000万円
  • 後遺障害:最高4,000万円~750,000円(後遺障害等級によって異なる)
  • 傷害:最高120万円

(参考:e-Gov法令検索『自動車損害賠償保障法』

任意保険とは?

任意保険とは、運転者が任意で加入する自動車保険のことです。自賠責保険だけでは足りない補償をカバーすることを目的とした保険で、自賠責保険に比べて補償範囲が広く、かつ支払限度額も高く設定されています。

例えば、自賠責保険は補償範囲が対人賠償に限られる上、支払限度額は最高でも4,000万円までとなっていますが、任意保険は対人・対物賠償は無制限となっているケースがほとんどです(ただし、保険の内容によります。)。

さらに、人身傷害保険や搭乗者傷害保険、車両保険などの特約を付加すれば、自身が被害者になった場合の補償も受けることができます。

自賠責保険と任意保険のどっちを使うか悩んだら弁護士に相談を!

交通事故時に利用する保険は基本的に任意保険となりますが、前述したようにケースによっては自賠責保険の利用を検討した方がよい場合もあります。

どちらを選べばよいのかわからない場合には、弁護士への相談をお勧めします。弁護士に相談するメリットは、以下の5つです。

 
  • 知識と経験に基づいた適切なアドバイスをもらえる
  • 適切な過失割合を主張できる
  • 弁護士基準で慰謝料を請求できる
  • 後遺障害等級認定のサポートを受けることができる
  • 保険会社との交渉を一任できる

ここでは上記のメリット5つをそれぞれ解説します。

適切なアドバイスをもらえる

交通事故補償に関する問題を多数取り扱ってきた弁護士に相談すれば、任意保険と自賠責保険のどちらを利用すべきかといった点を含めて、適切なアドバイスを受けることができます。

上述したとおり、事故の過失割合も踏まえた上で検討する必要がありますので、自身で安易に判断することは控えた方がよいでしょう。

適切な過失割合を主張できる

損害賠償の過失割合は、事故状況を踏まえて行われる示談交渉によって決まります。最初は加害者側の任意保険会社から過失割合を提示されることが多いのですが、典型的な事故のケース(追突事故など)を除けば、過失割合の算定は簡単ではありません。また、事故状況について加害者と被害者の認識が異なっているケースも少なくありません。このような場合、被害者の主張・認識が十分反映されないままに不利な過失割合を提示されることがあります。

過失割合は、受け取ることのできる賠償額に影響する重要な事項ですので、慎重に検討する必要があります。

弁護士に依頼すれば、類似の事故に関する過去の裁判例等を分析して適切な過失割合を主張し、加害者と粘り強く交渉できるというメリットがあります。

弁護士基準で慰謝料を請求できる

交通事故の慰謝料を決める基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあります。

このうち、原則として最も基準が高くなるのは、過去の判例を基に計算する弁護士基準です。必要最低限の補償を目的とした自賠責保険基準や、自賠責保険基準にやや上乗せする程度の任意保険基準に比べると、受け取ることのできる慰謝料額に大きな差が生じる可能性があります。

弁護士に依頼すれば、弁護士基準を用いて算定した慰謝料を主張して交渉しますので、受け取れる慰謝料額の増額を期待できます。

後遺障害認定のサポートを受けられる

交通事故で負ったケガが治療を受けても完治せず、後遺障害が残ってしまうケースがあります。その場合、後遺障害の等級認定を受けることにより、後遺障害慰謝料や逸失利益(後遺障害による労働能力の減少で将来発生するであろう収入減)を請求することが可能です。

ただ、後遺障害の等級認定は厳格に判断されますので、後遺障害診断書などの書類を正確に揃えて提出しなければ、非該当と認定されてしまいます。

弁護士に依頼すれば、後遺障害の等級認定の申請手続を一任できるとともに、通院に関して適切なアドバイスを受けることができるため、後遺障害の等級認定を受けられる確率は高くなるといえます。

保険会社との交渉を一任できる

交通事故が発生すると、加害者と被害者の間で示談交渉が行われます。

通常は、当事者双方が加入している任意保険会社を通じて交渉が進みます。しかし、追突事故など、自身の過失割合が0の場合、自身の任意保険会社による示談代行を利用することがを利用できません。すなわち、このようなケース(自身の過失がない事故の場合)においては、被害者自らが相手方の保険会社との示談交渉を行わなければならないということになります。

示談交渉には手間と時間がかかりますし、場合によっては示談交渉に精神的な負担を感じることも少なくありません。弁護士に依頼すれば、相手方との示談交渉を一任でき、このような手間と負担から解放されますので、治療や日常生活に専念することができます。

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加害者側へ賠償請求するときの流れ

加害者に交通事故の損害賠償を請求する際の基本的な流れは以下のようになります。

 
  1. 警察へ連絡する
  2. 病院での治療を受ける
  3. 示談交渉を進める

大まかなステップは3つですが、いくつか注意しなければならない点もあるので、どこで何をすればいいのか、基本的な情報をチェックしておきましょう。

警察へ連絡する

交通事故が発生したら、加害者・被害者問わず、警察にその旨を報告する義務があります(道路交通法第72条1項)。

「たいした損害はなかったから」、「面倒だから」といった理由で警察に連絡せずにいると、道路交通法違反に問われる可能性がありますし、保険金の請求に必要な交通事故証明書を発行してもらえなくなるので、必ず報告しましょう。

その際、いつ・どこで・どのような態様で事故が発生したのか、事故による負傷者や破損した器物はあるのか、事故現場でどのような措置を行ったのか、などを尋ねられますので、落ち着いて受け答えしましょう。

病院での治療を受ける

事故直後、自身の身体に痛みや違和感があった場合だけでなく、事故から1~3日経過した後になって痛みや違和感が出てきた場合も、病院を受診しましょう。特に、むち打ち症などのケガは、一定時間経過後に痛みやしびれが出てくることがあります。

なお、当初は物損事故として警察に届け出ていても、後からケガをしていることに気付いた場合は、人身事故に切り替えることができます。また、人身事故に切り替えなくても、実際に交通事故によって負傷して、その治療のために通院していた場合には、事故とケガの間に因果関係が認められる限り、治療費や慰謝料を請求できます。そのため、物損事故としていったん届け出てしまったら、人身事故にならない(治療費や慰謝料を請求できない)というものではありません。

ただし、事故日と受診日(初診日)の間隔が空いてしまうと、事故とケガの因果関係を立証することが難しくなるので、痛みや違和感を感じたときは早めに病院へ行くことをおすすめします。

示談交渉を進める

ケガの治療が終わったら、加害者と被害者の間で示談交渉が開始されます。示談交渉では、主に以下のような内容について話し合いが行われます。

 
  • 損害賠償金の範囲(慰謝料や治療費、修理費など)
  • 損害賠償金の金額
  • 過失割合
  • 示談条件

示談条件とは、損害賠償金の支払方法や支払期日、支払いが遅れた場合などの違約条項、示談成立後は賠償金以上の金額を請求しない旨を定める清算条項などのことです。相手方の代理人に弁護士が就いた場合、これらの示談条件について話し合いが行われることが多いといえます。

一度示談が成立すると、原則としてその内容を覆すことはできませんので、示談交渉は慎重に進めていく必要があります。もし、相手から提示された内容に不服がある場合は、安易に示談に応じることは避けた方がよいでしょう。

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まとめ

交通事故が発生した場合、基本的には相手方の任意保険を利用して補償を受けることになります。

ただ、加害者が不明の場合や被害者側の過失割合が大きい場合など、自賠責保険の利用を検討すべきケースもあるので注意が必要です。

どちらの保険を利用すべきか、判断に迷われたら弁護士に相談して適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

琥珀法律事務所では、交通事故補償問題の経験と実績を生かし、利用すべき保険のアドバイスや示談交渉のサポートなどを行います。交通事故で利用する保険や示談交渉にお悩みの方は、ぜひ弊所にご相談ください。

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】