物損事故とは?対応方法や請求できる賠償金について徹底解説

物損事故とは?対応方法や請求できる賠償金について徹底解説

物損事故とは、死傷者が発生していない交通事故を表す言葉です。人身事故と違って、物損事故は、原則として相手方に慰謝料を請求できません。物損事故に遭い、どのように被害を補填すればよいのか、不安に感じておられる方もいるのではないでしょうか。

物損事故の場合、被害車両の修理費や評価損、代車や買い替えの費用などを請求できます。

この記事では物損事故と人身事故の違いや、物損事故に遭ったときの対応方法、相手方に請求できる賠償金について解説します。

琥珀法律事務所の代表弁護士 川浪芳聖の顔写真

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

物損事故の意味や人身事故との違い

交通事故は人の死亡または負傷を伴う人身事故と、それ以外の物損事故の2種類に分けることができます。(※)物損事故と人身事故では、加害者に対する責任や事故後の処分などが変わってくるため、それぞれの違いを知っておきましょう。

ここでは物損事故の概要や、よく誤解されやすい人身事故との違いを解説します。

参考:『用語の解説』
URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/yougo.html

物損事故の概要

物損事故とは、交通事故のうち死傷者が発生していない事故を指します。国土交通省は、物損事故を「衝突・接触を伴うもので、死傷者が生じていないもの」と定義しています。(※)

交通事故によって、負傷した人や死亡した人が一人でも発生した場合、物損事故にはなりません。ただし、交通事故による怪我や障害の程度が極めて軽微な場合は、人身事故ではなく物損事故として処理する場合もあります。

参考:『事業用自動車総合安全プラン2020』
URL:https://www.mlit.go.jp/common/001393908.pdf

物損事故と人身事故の違い

物損事故と人身事故の違いは、加害者に対する処分です。死傷者がいない物損事故の場合、加害者は、原則として刑事責任や行政責任を負う(刑事処分、行政処分を科される)ことはありません。ただし、被害者側は物損事故によって生じた損害に対し、加害者に民事責任を追及できます。

なお、刑事処分は、過去の違反行為に対する制裁の趣旨で科されるのに対し、行政処分は将来起こりうる危険を防止し、安全を確保する趣旨で科される点で異なります。

物損事故人身事故
刑事責任なしあり
行政責任原則なしあり
民事責任ありあり

物損事故であっても、飲酒運転や速度超過などの悪質な違反行為があった場合には、物損事故に至る前のそれらの運転行為に対して行政責任を負いますし、物損事故によって建造物を損壊してしまった場合も例外的に行政責任を負うことになります。

  • 交通違反における行政責任については、点数制度が採用されています。交通違反行為、起こした事故の類型ごとに細かく点数が定められており、過去3年間に加算された点数や行政処分を科された回数によって、新たに科される処分の内容(免許停止、免許取り消し等)が決定されます。

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8ステップで物損事故が発生したときの対応を解説

物損事故が発生したら、以下の8つのステップで対応しましょう。

  1. 怪我人の有無を確認する
  2. 二次被害の発生を防ぐ
  3. 警察へ連絡する
  4. 保険会社に連絡する
  5. 相手方の連絡先を聞く
  6. 事故の状況を記録する
  7. 損害に関する資料を準備する
  8. 示談交渉を進める

怪我人の有無を確認する

まずは交通事故に遭った自分を含めて、怪我人がいないかを確認しましょう。

自分や同乗者が怪我をしている場合は周囲の安全を確保し、すぐに救急車を呼びましょう。

怪我人の有無は、事故後の処理にも影響します。前述のとおり、物損事故は死傷者がいない事故のことです。怪我人がいる場合は、物損事故ではなく人身事故として事故後の処理を進めていく必要があります。

二次被害の発生を防ぐ

次に、二次被害の発生を防ぐため、必要な対応をしましょう。

特に注意しなければならないのが後続車両による追突事故です。スピードが出やすい高速道路の場合、死亡事故のおよそ5件に1件が後続車にひかれる事故だといわれています。(※)

後続車両が続けて事故を起こさないように、以下の3つの対応をしましょう。

  • 車両を運転している場合はハザードランプを点灯させ、路肩に停車する
  • 発炎筒を使用するか、停止表示器材を車両の後方に設置する
  • ガードレールの外側など、安全な場所に移動する

参考:『いま確認したい!高速道路上でのもしもの対処法』
URL:https://www.gov-online.go.jp/prg/prg16580.html?nt=1

警察へ連絡する

物損事故に遭ったときに大切なのが、すみやかに警察へ連絡することです。その理由は2点あります。

  • 警察への通報は、加害者・被害者双方にとっての義務であるため
  • 警察に通報しないと、交通事故証明書を受け取れなくなるため

交通事故証明書は、交通事故が発生した事実を証明するための書類です。交通事故証明書がなければ、事故の相手方に対する損害賠償が認められなくなる可能性があります。

また、警察への通報を怠ると、道路交通法第72条で定められた報告業務に違反したとして、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金を科される可能性もあります。(※)

参考:『道路交通法』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000105

保険会社に連絡する

警察への連絡が完了したら、自身が契約している保険会社にも連絡を入れましょう。

物損事故の被害者の場合、車両保険に加入していると、車両に生じた損害の補償を受けられる可能性があります。車両保険が適用される条件は、保険会社によって異なるため、契約している保険会社に連絡して問い合わせましょう。

また、可能であれば、相手方の保険会社にも連絡し、または、相手方に連絡してもらい、車両に生じた損害や必要な修理について情報を共有しておくことも大切です。保険会社に連絡せずに事故車両を修理すると、修理にかかった費用などの請求を認めてもらえないおそれがあります。

相手方の連絡先を聞く

物損事故に遭った場合、事故の相手方に故意または過失がある限り、相手方に対して民事責任(損害賠償責任)を追及できます。事故後の損害賠償を円滑に進めるため、加害者の連絡先を聞いておきましょう。

  • 相手方の氏名
  • 住所(または勤務先の所在地)
  • 電話番号(または勤務先の電話番号)
  • メールアドレス

相手方の連絡先が分からないと、事故後の損害賠償手続を円滑に進めることができず、解決までに無駄に時間を要することになるかもしれません。そのため、後で連絡できるように、相手方の氏名や住所、電話番号、メールアドレスなどの情報を得ておきましょう。相手方から名刺をもらうことも有用です。ただし、相手方と連絡がとれない、相手方は仕事中に事故を起こしたといった特段の事情がない限り、相手方の勤務先に連絡することは控えるのがよいでしょう。

事故の状況を記録する

物損事故による損害賠償を適切に請求するためには、事故が起こった状況を正確に記録しておく必要があります。

手元に携帯電話やスマートフォンがある場合は、写真や動画などで事故後の状況(自身の車両や携行品、衣類の損傷部分、事故発生場所など)を記録しましょう。写真や動画、録音などのデジタルデータは、民事訴訟法における準文書に該当し、交通事故の証拠として利用できます。

また、事故当時に車両を運転していた場合は、ドライブレコーダーがあると便利です。ドライブレコーダーによっては、前方だけでなく周囲や後方を撮影できるものもありますので、事故の状況を正確に記録できます。ただし、ドライブレコーダーの録画データを保管することを忘れないように気をつけましょう。ドライブレコーダーの操作方法をよくわかっていない場合には、修理を依頼する車屋さんにお願いして録画データを保管してもらうのが確実です。

損害に関する資料を準備する

物損事故によって生じた損害の程度を証明するための書類も準備しましょう。

事故後に損害賠償を請求する場合は、物損事故によって具体的に、何に、どの程度の損害が生じたかを確定させる必要があります。例えば、車両が損壊した場合は修理見積書、買い替えを行う場合は購入見積書などの書類を損害を確定させるための資料として確保することが重要です。

どのような資料を準備すればよいか分からない場合は、交通事故問題に詳しい弁護士に相談しましょう。

示談交渉を進める

必要な書類の準備を終えたら、相手方の保険会社(相手方が任意保険に未加入の場合は相手方本人)と示談交渉を進めましょう。

示談交渉を行わなければ、速やかに車両の修理費や買い替え費用などを確保できません。物損事故の損害賠償請求権は、事故発生日の翌日から3年が経過すると消滅時効にかかってしまいます。時効が成立する前に、すみやかに示談交渉を終える必要があります。

※消滅時効とは、「一定期間権利が行使されない場合に当該権利を消滅させる制度」であり、民法に規定されています。消滅時効期間経過後に、相手方に対して権利を行使しても、相手方から「消滅時効を援用する」と主張されてしまうと、当該権利行使は認められなくなってしまいます。

示談交渉で争点となるのは、物損事故によって生じた損害の程度や、事故の当事者の過失割合などです。示談交渉に不安がある場合や、仕事や子育てなどで時間がない場合は、弁護士に示談交渉を依頼してお任せすると安心です。

物損事故の際に請求できる賠償金

物損事故の被害に遭ったら、相手方に事故を起こしたことについて故意・過失がある限り、相手方に対して賠償金を請求できます。物損事故の賠償金として請求できるものは、車両に関する損害、家屋や店舗に関する損害などに分けることができますが、ここでは、主に問題となりやすい以下の6種類の損害について解説していきます。

  • 被害車両の修理費
  • 修理による評価損
  • 代車費用
  • 買替差額
  • 営業車両の休車損害
  • 積荷や着衣、携行品に関する損害

被害車両の修理費

被害車両の修理費とは、事故で損害を受けた車両の修理に要する費用です。車両が全損せず、修理が可能な場合は、修理費を実費で請求できます。例えば、交換する部品代や工賃などを相手方に請求することが可能です。

ただし、修理費を請求するには、事故と修理箇所の関連性を証明する必要があります。事故と無関係な箇所を修理しても、かかった修理費を請求することはできません。また、修理費や修理内容が過大である場合も、修理費の請求は認められません。例えば、修理に関する工賃が他社と比べて明らかに高額である場合や一部分の塗装で修理可能であるのに車体全体の塗装を行う場合などがそれらの典型例です。

事故直後の状況を写真や動画などで記録しておくと、損傷箇所の特定が容易となり、修理費を請求しやすくなります。

修理による評価損

修理による評価損とは、修理によって下落した車両の市場価値のことです。修理を行っても車両の見た目や機能などが元に戻らない場合、下落した市場価値に相当する金額を評価損として請求できます。

また、修理によって外観からは分からない程度に原状回復できたとしても、車両の修理歴が残ることがあります。その結果として事故前よりも車両の市場価値が低下した場合は、その分の評価損を請求することが可能です。車両のフレーム等の骨格部分が損傷した場合には、修理をしても「修復歴あり」として取り扱われることが多いといえます。

裁判実務では、事故に遭った車両が新車に近ければ近いほど、また、高級車であればあるほどに、修理費に対して高い割合で評価損が認められる傾向にあります。

代車費用

代車費用とは、事故車両の修理や買い替えまでの間に発生した、代車の手配費用(代車使用料)のことです。例えば、ディーラーや自動車販売店から代車を借りた場合や、レンタカーを利用した場合に代車費用を相手方に請求できます。

ただし、代車費用を相手方に請求できるのは、代車の使用に必要性・相当性が認められる場合に限られます。

必要性事故車両を仕事や通勤・通学に使用していた事故車両の代わりとなる移動手段がない
相当性事故車両と同等の市場価値の代車を利用している代車を手配した期間が妥当であり、
修理や買い替えまでの間のみ利用している

買替差額

買替差額とは、事故直前の車両時価額から事故車両の売却代金を控除した金額のことを指します。事故車両の損傷が大きく、修理不可能な場合(物理的全損)や修理自体は可能であるものの、修理費用が事故直前の車両の市場価値(車両時価)を上回る場合(経済的全損)には、車両の買い替えが相当と認められます。

ただし、買替差額を超えて車両の買い替え費用を相手方に請求することはできません。例えば、新車の購入価格が買替差額を上回る場合、買替差額までしか補償されませんので、結果として赤字になります。

※買替差額は、買替諸費用とは異なる概念です。買替諸費用とは、事故車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場で取得する際に要する諸費用のことを指し、登録費用、車庫証明費用、自動車取得税などが買替諸費用に該当します。

営業車両の休車損害

営業車両の休車損害とは、タクシーやバスなどの事業用自動車が物損事故に遭った場合に請求できる賠償金です。

事業用自動車が事故によって損壊すると、修理や買い替えまでの間、営業活動に車両を使用できません。その期間に本来得られたはずの利益を見積もり、休車損害として請求することが可能です。

休車損害は、事業用自動車が使用できなかった期間(休車期間)と、1日当たりの平均料金を掛け算することで計算できます。

積荷や着衣、携行品に関する損害

積荷損とは、トラックなどの事業用自動車の積荷に生じた損害のことです。物損事故に遭い、積荷が破損した場合は、その分の損失を積荷損として請求できます。

また、物損事故に遭ったときに身に着けていた着衣や携行品(携帯電話、腕時計など)が損壊した場合も、損害賠償を請求することが可能です。事故との因果関係を事後的に証明するために、壊れた所持品や車両積載物、破れた衣類の写真を事故直後に撮影し、示談交渉や裁判手続で活用することを見越して、そのデータを保管しておきましょう。

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物損事故で慰謝料は請求できる?

物損事故に関するよくある誤解が、物損事故でも慰謝料は請求できる、というものです。物損事故は人身事故と違って、例外的なケースを除いて、慰謝料請求が認められません。そもそも、交通事故における慰謝料とは、事故によって生じた精神的・肉体的苦痛を補償するためのものであるところ、物損事故の場合、事故による肉体的な苦痛は発生しませんし、車両などの損壊に伴う精神的苦痛も、修理費用や買い替え費用の賠償によって解消されたとみなされるからです。

もし、交通事故によって怪我を負ったことが事後的に判明した場合(例えば、事故から3日後に痛みを強く感じるようになって、病院にかかったとき)は、物損事故から人身事故に切り替えましょう。

基本的には慰謝料は請求できない

上述したとおり、物損事故の被害に遭った場合、原則として慰謝料請求は認められません。

しかし、①社会通念上認められる特別な主観的・精神的価値を有しているものが損壊した場合や②加害行為が著しく反社会的である場合には、物損事故であっても例外的に慰謝料請求が認められます。

①の典型例として、祖先代々引き継がれてきた家宝や極めて希少性の高い美術品(有名な美術家の作品)が損壊した場合を想定することができます。また、ペットが死傷した場合も①の典型例といえます。ペットは法律上、物として扱われますが、同時にペットには大切な家族の一員としての側面もあります。そのため、過去の裁判例の中には、ペットの死傷による精神的苦痛を理由として、慰謝料の請求を認めたものが存在します。

②の典型例としては、事故の相手方が悪意をもってわざと衝突してきた場合を想定できます。

怪我がある場合は人身事故に切り替える必要がある

交通事故によって怪我をしたら、物損事故ではなく人身事故への切り替えを検討しましょう。当初の予想よりも怪我の程度が重大であり、通院等が長引いたとき等に物損事故扱いのままでは支障が生じる可能性があるためです。

人身事故に切り替える場合の手順は以下のとおりです。

  1. 病院で治療を受け、医師に診断書や後遺障害診断書(後遺症が残った場合)を交付してもらう
  2. 警察に診断書を提出し、人身事故に切り替えたい旨を伝える
  3. 警察の指示に従って実況見分を受ける(事故車両なども必要)

物損事故における示談成立までの流れ

物損事故における示談成立までの流れは以下のとおりです。

  1. 警察や保険会社に連絡する
  2. 事故車両の修理費用や買い替え費用の見積もりを取得する
  3. 相手方の保険会社(または相手方本人)と示談交渉を開始する
  4. 損害賠償額や過失割合について話し合い、示談する
  5. 示談書(合意書)や免責証書を作成する
  6. 合意した金額が示談金として支払われる

示談成立後、損害賠償金が支払われるまでの期間の目安は1〜2週間程度です。ただし、損害賠償額や過失割合について双方が合意できない場合は、示談交渉が進まず、裁判等の手続に移行せざるを得ないこともあります。この場合、解決までに相当な時間を要することになります。

示談交渉がスムーズに進まない場合は、交通事故問題に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ

物損事故に遭った場合、被害車両の修理費や代車費用などを請求できます。一方、人身事故と違って、慰謝料請求は原則として認められません。

修理費用などに関する賠償金を確実に受領するために、また、事後的な紛争の発生を予防するために、事故の状況や損害の程度を証明するための書類やデータ(録音、録画など)を準備しておきましょう。

物損事故に遭ったら、弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。弊所は、必要書類の準備から相手方との示談交渉まで、責任をもって真摯に対応し、事故に遭われた方をサポートいたします。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】