物損事故から人身事故へ変更しなかったら?注意点を詳しく紹介

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交通事故によってケガをしたのに物損事故から人身事故へ変更しなかったら、どのようなデメリットがあるのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。人身事故であるのに物損事故として処理されたまま放置すれば、被害者には加害者に対して損害賠償を請求するにあたって、いくつか問題が生じかねません。

そのため、事故日から数日経過した後になって、ケガをしたことが発覚したら、速やかに病院を受診して診断書を作成してもらい、物損事故から人身事故に切替えることを検討しましょう。この切替手続を自分で行う自信がないときは、弁護士に相談してみましょう。

この記事では、物損事故から人身事故へ変更しなかったときのデメリットや注意点、変更方法、交通事故が発生したら弁護士に相談すべき理由をご紹介します。

琥珀法律事務所の代表弁護士 川浪芳聖の顔写真

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

物損事故と人身事故の違い

物損事故と人身事故の違いは、その交通事故で人的被害が生じているかどうかです。物損事故は損害がモノ(物)のみに留まる事故を指すのに対し、人身事故は、損害がモノ(物)だけに留まらず、人の生命・身体に及ぶ事故を指します(なお、モノに関する損害が生じていなくても、人の生命・身体に損害が生じた場合は人身事故になります)。また、両者は加害者に対する刑事罰や行政処分の有無にも違いがあります。

物損事故とは?

物損事故とは、車や家など他者の所有物や電柱などの公共物など、“モノ”のみに損害が生じた交通事故です。なお、民法上、動物はモノとして扱われていますので、家畜やペットに被害が生じたときも物損事故として扱われます。

言い換えると、人的被害のない交通事故が物損事故です。物損事故では人身事故に比べて被害者の示談金は低額になりやすく、加害者には、飲酒運転や当て逃げなどの例外を除き、原則として刑事処分や行政処分などの罰も適用されません。

人身事故とは?

人身事故とは、人的被害が生じた交通事故です。具体的には、被害者にケガや後遺障害、死亡という結果が生じた事故を指します。なお、人とモノの双方に損害が生じた事故は、物損事故ではなく人身事故として扱われます。

人身事故の被害者は、加害者に対して、損壊された物(車両、衣類、カバン、携帯電話等)の修理費用の他に、ケガの治療に要した治療費や慰謝料なども請求可能です。また、加害者には、事故態様や被害者のケガの程度等によりますが、刑事処分と行政処分の双方が科される可能性があります。

物損事故から人身事故へ変更しなかったときのデメリット

物損事故では、人身事故のように警察による実況見分が行われず、実況見分調書が作成されません。そのため、被害者は、事故後に過失割合を巡って加害者と対立した場合に、実況見分調書に依拠して過失割合を取り決めることができなくなります。また、物損事故扱いのままであっても、実際にケガをして治療のために通院していた場合には、慰謝料や治療費を請求できますが、人身事故として届け出ていないことから、ケガの程度が軽いのでは?と疑われて、治療費の支払いを早期に打ち切られたり、慰謝料を十分に負担してもらえない可能性も否定できません。さらには、物損事故扱いのままでは、人身事故証明書入手不能理由書を作成・提出しなければ、自賠責保険も利用できません。

警察に実況見分調書を作成してもらえない

実況見分調書とは、警察が事故発生時の状況の分析結果や現場写真などをまとめた書類です。実況見分時は、原則として被害者と加害者が立ち合って、事故発生当時の状況説明などを行います。

実況見分調書は刑事裁判の重要証拠となるだけでなく、示談交渉で過失割合を決定する上でも役立ちます。しかし、実況見分調書は、人身事故の場合にしか作成されず、物損事故ではより簡略的な「物件事故報告書」しか作成されません。物件事故報告書には交通事故発生時の詳しい状況の記述はなく、簡易な記述がなされるだけですので、過失割合の立証に役立つとはいえません。

十分な賠償を受けられない可能性がある

ケガをしているのに人身事故への切り替えを行わないと、物損事故扱いのままで処理されることになります。しかし、この場合、事故の相手方本人から「人身事故になっていないのだから、ケガの治療費や慰謝料は払わない」と言われて支払いを拒絶されたり、相手方保険会社に「ケガの程度が軽い」と判断されて、治療費等の支払いを早期に打ち切られるおそれがあります。

自賠責保険が適用されないおそれがある

自賠責保険は交通事故の被害者救済を目的とした、強制加入の保険制度です。人身事故の被害者は加害者の加入する自賠責保険から、所定の補償を受けることができます。

しかし、人身事故を物損事故扱いのままで処理してしまうと、人身事故証明書入手不能理由書を提出しない限り、自賠責保険による補償を受けることができません。事故の相手方が任意保険に未加入の場合には、相手方の資力が乏しいと、実質的には何の補償も受けられないことになるおそれがあります。

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物損事故から人身事故へ変更しなかったときの注意点

物損事故では、加害者は原則として刑事責任や行政責任を負いません。このため、本来であれば違反点数などが加算される事故であっても、無加算のままです。また、物損事故扱いのままにすると、ケガの程度が軽い、事故との因果関係が不明等と反論されて、十分な補償を受けることができなくなるおそれもあります。

加害者へ刑事責任や行政責任を問えなくなる

人身事故では、加害者は刑事処分と行政処分の双方の責任に問われるおそれがあるに対し、物損事故では、通常どちらの責任にも問われません。人身事故の場合、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪が成立すれば、起訴されて拘禁刑を科されることがあります。

また、行政処分では事故の内容に応じ、運転免許の違反点数が加算され、3年間の累計点数次第では、免許の停止や取り消し処分を受けることもあります。

なお、違反内容によっては1回で所定の違反点数に達し、免許が取り消されることもあります。物損事故で処理されると、これらの刑事責任や行政責任を加害者に問うことができません。

後遺障害等級認定においては不利になる

後遺障害とは、治療を受けても治癒せず、将来において回復が困難と見込まれる精神的または身体的な状態をさします。自賠責保険や任意保険では、後遺障害の程度を等級で区分し、後遺障害等級認定を受けることで損害賠償を請求できます。

後遺障害の認定は書面資料により行われるため、事故の状況や怪我の状態・経過等がわかる必要書類を揃えて交通事故と後遺障害の因果関係を証明しなければいけません。

しかし、ケガをしたのに物損事故扱いのまま放置し、事故日から相当期間経過した後になって病院を受診したような場合、事故による怪我であるとの証明が困難となり、後遺障害の認定を申請しても後遺障害等級が認定されないおそれがあります。また、仮に事故後にすぐに病院を受診したとしても、物損事故扱いのままにしていると、ケガの程度が軽い(後遺障害が残るほどのケガではなかった)と判断されて、後遺障害等級の認定に影響するおそれがあります。

加害者が物損事故から人身事故への変更を拒否する理由

交通事故の加害者から、人身事故ではなく物損事故で処理して欲しいと頼まれることがあります。これは、人身事故では行政責任や刑事責任に問われるおそれがあるからです。

免許停止などの行政処分を受けたくないから

物損事故では基本的に加害者は行政処分を受けることがなく、運転免許の違反点数も加算されません。一方、人身事故は行政処分の対象となるため、事故内容に応じて、違反点数が加算されます。

違反点数によっては運転免許の停止や取り消し処分を受けることもあり、その場合には、加害者の仕事や日常生活に大きな影響が及びます。特に、仕事で車の運転が必須の業務(タクシー運転手、トラック運転手など)に従事している方は甚大な不利益を被ることになります。

罰金などの刑事処分を受けたくないから

自動車運転過失致死傷罪では、7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金に処されます。危険運転致死傷罪では、人を負傷させた場合は15年以下の拘禁刑、人を死亡させた場合は1年以上の有期拘禁刑に処されます。

上記のような交通事故が原因の刑事処分は、物損事故ではなく人身事故が対象です。刑罰に処せられれば、加害者は前科がつくことになります。

参考: 『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000086_20220617_504AC0000000068

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物損事故から人身事故へ変更する方法

事故当時は物損事故で処理されたとしても、後日むち打ちなどの症状が出たときは、以下の方法で人身事故に切り替えることができます。

  • 病院で診断書をもらう
  • 警察で切替手続を行う
  • 加害者の保険会社へ連絡する
  • 実況見分に立ち会う

被害者には人身事故を物損事故のままにしておくメリットはほぼありませんので(仕事を休む等して実況見分に立ち会う必要がなくなることはメリットといえるかもしれません。)、軽症でもケガなどが発覚したときは、早めに切替手続を行いましょう。

病院で診断書をもらう

物損事故から人身事故に変更するには、病院で診察を受け、医師に診断書を作成してもらう必要があります。診断書がないと、事故と怪我の因果関係を証明できないためです。また、医師以外は診断書を作成できないため、病院を受診しましょう。

診断書の作成時期に期限はないものの、事故から相当な日数が経過していると、診察を受けても、事故との因果関係を証明できなくなることもあります。痛みが出たら速やかに病院を受診しましょう。

警察で切替手続を行う

診断書を受け取ったら、当該交通事故を管轄する警察署に連絡し、物損事故から人身事故に変更したい旨を伝えます。連絡すると、診断書の他に用意や記載が必要な書類を案内されますので、期限までに準備しましょう。

なお、物損事故から人身事故への切替手続に期限はありません。しかし、日数が経過していると関係者の記憶も曖昧になり、因果関係も立証しづらくなるため、受け付けられないこともあります。

加害者の保険会社へ連絡する

警察で切替手続の申請をした後は、加害者の加入する任意保険会社に対して、ケガをしたので物損事故から人身事故に切り替える旨を連絡します。

なお、事故から相当日数が経過したこと等を理由に、警察が人身事故への変更を拒否した場合であっても、「人身事故証明書入手不能理由書」を作成・提出することにより、人身事故として保険上の補償を受けられることがあります。必要なときは、自身の保険会社の担当者に確認しましょう。

実況見分に立ち会う

人身事故では実況見分調書が作成されますので、変更時は改めて実況見分を行います。実況見分では、警察が原則として加害者と被害者の双方に事故当時の状況を確認します。

具体的には、最初に相手を確認した位置や相手方の存在を認識した位置、ブレーキをかけはじめた位置等について質問されますので、記憶のままに正確に答えましょう。なお、後日実況見分を行うときは、依頼した弁護士に付き添ってもらうこともできます。

このようにして作成された実況見分調書は、過失割合を決めるときの証拠書類としても利用できます。

物損事故や人身事故が発生したら弁護士に相談すべき理由

物損事故や人身事故が発生したら、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士であれば示談交渉などの面倒な手続を一任でき、物損事故から人身事故への切り替えもスムーズに進めることができます。また、慰謝料を増額しやすい点もメリットです。

人身事故への切り替えがスムーズに進む

物損事故から人身事故にスムーズに切り替えるためにも、交通事故に遭って負傷したら、なるべく早期に弁護士に相談するのがおすすめです。交通事故では、当初痛みがなかったことから物損事故扱いとしたものの、後日むち打ちなどの症状が出ることは少なくありません。 病院の受診や切替手続を億劫に感じ、通院することなく放置される方が一定数おられますが、十分な補償を受けるためには、放置せず、適切に行動しましょう。

慰謝料が増える可能性が高い

慰謝料は人の精神的・肉体的苦痛に対する賠償です。痛みの感じ方は人それぞれですが、人の主観のみで慰謝料の金額を決定するとなると不平等が生じてしまいます。そのため、入通院の実日数や入通院期間を考慮して、以下の3つの基準により算定を行います。

  • 自賠責保険基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士基準(裁判所基準)

上記基準額のうち、弁護士が交渉を進める上で提示する弁護士基準が最も高くなる傾向にあります。弁護士に依頼すれば専門的知識に基づく示談交渉をできますので、被害者個人で交渉するよりも高額の慰謝料を受け取れる可能性は高くなります。

面倒な手続を一任できる

弁護士に依頼すれば、示談交渉など交通事故にあった後に被害者に生じる面倒な手続を一任できる点もメリットです。また、裁判に発展したときも、代理人として法的観点から的確に主張・反論していくことが可能です。

被害者のみで保険会社と交渉しても、担当者によっては過失割合の主張などが通りづらいこともあります。しかし、弁護士が過去の判例などを基に主張すれば、担当者が考えを変えて対度を軟化させることが多々あります。また、必要な手続を弁護士に任せることができますので、被害者の精神的負担の軽減にも役立つでしょう。

まとめ

モノのみに被害が生じている物損事故と、人の心身に被害が生じている人身事故では、加害者が問われる責任の内容や程度に大きな違いがあります。 後日むち打ちなどの症状が出たときは速やかに人身事故に変更しましょう。もし、切替方法が分からないときは、弁護士に相談するのがおすすめです。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】