前科は調べることができるの?

前科は調べることができるの?

「前科者」という表現があります。一般的には法律による刑罰を受けた人のことを指して、悪いイメージがありますよね。
例えば酔っ払ったときに喧嘩して逮捕されてしまったとき、交通事故を起こして罰金を支払ったときに、前科がついてしまうのでしょうか。
前科がついたら日常生活にどのような影響があるのでしょうか。前科があることが他人や会社にバレてしまうことがあるのか。色々と不安なことが出てきます。

「前科」とは何か

「前科」という用語は、実は正確な法律上の用語ではありません。前に刑に処せられた事実を俗に前科と称しているにすぎません。
逮捕されただけで刑に処せられていない場合には「前科」にはなりませんが、「前歴」という形で残ることになります。

前科の及ぼす影響

前科がつくと、法律上一定の不利益が科せられます。具体的には、再び罪を犯したときに執行猶予がつかない場合がある(刑法25条)、再犯した場合に刑が重くなる(刑法56条、57条、59条)、必要的保釈ができなくなる(刑訴法89条2号、3号)といった刑事手続に関するもの、弁護士や医師になれないなど特定の法令が定める資格制限(弁護士法7条、医師法4条ほか)等が挙げられます。

そのため、資格制限以外では日常生活に支障はほぼなさそうです。
しかし、実際には世間から冷たい態度で差別的な待遇されるとか、前科があるという理由で就職、結婚、進学に影響がでるなどの事実上の不利益の方が気にかかるかもしれません。

前科には2種類ある?

前科は刑罰法令や人の資格に関する法令を適正に運用していくための重要な基礎資料ですから、この業務を所掌する機関では、前科を把握しておく必要があり、業務を円滑にするために前科の事実の登録が行われています。
前科には目的の違いによって2種類あります。

検察庁が保管する「前科」

第一に、検察運営の適正及び裁判の適正に資することを目的とした検察庁が行っている「電子計算機又は犯歴票への前科の登録」があります。罰金以上の刑に処せられた場合は、前科調書に記載され検察庁にも保存されます。これが一般にいう「前科」というものです。
※本コラムでは特に断らなければこちらの「前科」を念頭に記載しています。

過去に刑事事件で有罪判決を受けたという事実は一生残ります。前科の有無は量刑に影響し、同じ犯罪でも初犯よりも2回目以降に対する判決の方が重くなります。

市区町村が保管する「犯罪人名簿」

第二に、身分証明事項及び選挙人名簿調製事務に資することを目的とする、前科を有する者の戸籍事務を管掌する市区町村で行っている「犯罪人名簿への前科の登録」です。刑事事件で前科がつくと、本籍のある地方自治体が管理する犯罪人名簿に一定期間記載されます。
これは、一定の職につく資格又は選挙権・被選挙権の有無の調査・確認のためのものです。

「犯罪人名簿」については、例えば執行猶予がつく場合には、執行猶予期間を無事に過ごせば懲役刑の言渡しが効力を失い、前科はなくなります。実刑を受ける場合にも、刑法の規定により刑期の満了から10年間、罰金以上の刑に処せられないで過ごせば、刑の言渡しが効力を失うので前科はなくなります。
この結果、資格制限事由としての前科にはこれ以降、当たらないことになります。

前科についてのQ&A

前科は一生残るの?

本人が死亡するまで一生残ります(犯歴事務規定18条)

他人が調べることができるの?

前科調書の照会は検察官又は検察事務官しかすることができず(犯歴事務規定13条)、一般人が調べることはできません。検察庁における前科の調査回答は、検察裁判の事務処理上これを必要とするものについて行われるものであって、他の目的に利用されることはありません。
しかし、現在ではインターネットの書き込みなどによって過去の犯罪の報道の記録等の情報が明るみになることが多いと考えられます。

前科があると就職に不利になる?

前述のとおり、一般人が前科を調べることはできませんので、履歴書に書く欄がなければわざわざ自分から開示する必要はないでしょう。
もしも採用手続の中で確認の必要性について十分な説明を受けた上で、特に前科・前歴の有無を質問された場合には、嘘を言えば経歴詐称となる可能性があるのでご注意ください。

前科があると選挙権がなくなる?

禁錮以上の刑に処せられたとしても、その刑の執行を終わるまでの間、一時的に制限されるだけです(選挙に関する犯罪は別です)
選挙権の制限については、詳しくは公職選挙法11条に列挙されています。

自動車の速度制限違反で警察にお金を支払ったのも前科になるの?

支払ったお金が「反則金」であれば、前科になりません。行政罰としての「反則金」は、刑事罰の「罰金」とは区別されます。
道路交通法違反や交通事故を起こすと行政処分と刑事処分が科せられるのが原則です。

しかし、交通事故はあまりにも件数が多いため、道路交通法に「反則金」という特殊な制度が設けられています。反則金とは、交通反則通告制度に基づき、課される行政処分としての過料のことで、通告に応じて納付すれば刑事手続を免れることができます。
通告に応じない場合は、刑事手続きに移行しますのでご注意ください。

即決裁判でも前科になる?

前科になります。即決裁判は期日が1日だけで終わる簡易な裁判手続ですが、罰金刑以上の刑が科せられますので、前科になります。

法律的な話となるとややこしくて難しい問題が多いですよね。身近なトラブルや疑問は、弁護士法人琥珀法律事務所までお気軽にお問い合わせください。