人身事故と物損事故の違いは?決め方や切替方法について解説

5つのポイントで人身事故と物損事故の違いを解説

交通事故は、人の死亡または負傷を伴う人身事故と、それ以外の物損事故の2種類に分けられます。交通事故に遭って負傷しているのに、人身事故・物損事故のどちらで届け出るか迷っている方もいるのではないでしょうか。

人身事故と物損事故では、事故後に請求できる賠償金や、示談交渉における過失割合の算定しやすさなどが変わってきます。それぞれの事故の違いや物損事故を人身事故へ切り替える流れを理解しておけば、いざというときに冷静に対応できるでしょう。

この記事では、人身事故か物損事故かを決める方法や、それぞれの違い・共通点、人身事故を物損事故として届け出るデメリットや切り替える方法をご紹介します。

参考: 『用語の解説』
URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/yougo.html

琥珀法律事務所の代表弁護士 川浪芳聖の顔写真

この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

人身事故か物損事故かはどう決まる?

交通事故が人身事故・物損事故のどちらで処理されるかは、被害者の方にとって重要なポイントです。人身事故を物損事故として届け出ると、実況見分が行われないことにより、事後的に事故態様や過失割合の検証に支障が生じるおそれがあります。

ここでは人身事故か物損事故かが決まる流れや、人身事故として届け出るべき理由を解説します。

基本的には警察が決める

人身事故か物損事故かを判断するのは警察です。

事故が起きた後、当事者には警察に対して報告する義務があります。警察は報告の内容(人的被害の有無)や、被害者が行った届け出に基づいて、人身事故または物損事故いずれかの扱いで事故を処理します。ただし、被害者が医師の診断書を提出した場合は、いったん物損事故扱いとされていても、人身事故扱いに変更してもらうことが可能です。

人身事故か物損事故のどちらで扱われているかは、自動車安全運転センターで交付を受けられる交通事故証明書で確認できます。

ケガをしている場合は人身事故として届け出るべき

事故によってケガや障害を負った場合は、基本的に物損事故ではなく人身事故として届け出ることをおすすめします。

物損扱いになると、実況見分が行われず、物損事故報告書という簡易な書面が作成されるにとどまります。しかし、一般的に、実況見分後に作成される実況見分調書に比べて、物損事故報告書は、記載内容が簡略であり、事故状況を正確に反映していない可能性は高いといえます。そうすると、事故後に事故態様や過失割合について争いとなった場合に、ドライブレコーダーの映像等の客観的な証拠がある場合を除いて、実況見分調書がなければ、当事者の認識の差を埋めることができず、解決が長引くことにつながりかねません。

人身事故を物損事故として処理すると上記のようなデメリットがあるため、ケガをしている場合は人身事故として届け出ましょう。

人身事故なのに物損事故にされるケースもある?

交通事故に遭ったとき、加害者や警察から「物損事故として届け出て欲しい」という意向を伝えられるケースがあります。

ここでは、人身事故なのに物損事故扱いにするよう求められるケースを2つご紹介します。

加害者が物損事故を主張する理由

1つ目のケースは、加害者から物損事故として届け出るように求められるケースです。

加害者にとって、物損事故扱いよりも人身事故扱いの方が事故後の責任が大きくなります。物損事故の場合には、飲酒運転や相当な速度違反があった場合を除き、刑事責任に問われることはありません。また、物損事故の場合には違反点数も加算されません。一方、人身事故の場合には、被害者の傷害の程度等によっては、過失運転致死傷罪という刑事責任に問われることがありますし、違反点数も治療期間に応じて加算され、累積点数が一定の数字を超えると免許停止・免許取り消しといった行政処分に付されることになります。それゆえに、加害者から、物損事故として届け出るようにお願いされることがあります。

しかし、人身事故を物損事故として届け出ても、被害者にとって特にメリットはありません。人身事故を物損事故として届け出たからといって、治療費や慰謝料の請求ができなくなるわけではありませんが、安易に加害者のお願いに応じることについては慎重になった方がよいといえます。

警察が物損事故を主張する理由

2つ目のケースは、事故に対応する警察官から物損事故として届け出るように求められる(いったん物損事故として取り扱われる)ケースです

人身扱いにすると、物損扱いよりも事故後の処理の手間が増えます。例えば人身事故では、加害者・被害者の双方が立ち会った上で、警察が実況見分を行う必要がありますが、物損事故では簡易な物損事故報告書を作成することで足りてしまいます。

また、事故直後の状況によっては、被害者のけがをしたかどうかが不明な場合があり(軽微な事故の場合など)、そういったケースではいったん物損事故扱いにされることが多いといえます。

5つのポイントで人身事故と物損事故の違いを解説

ここでは、人身事故と物損事故の違いを5つのポイントで解説します。なお、ここでの区分は、交通事故によってけがをしたのに人身事故として届け出せず、物損事故として扱われている場合を除きます。けがをしたかどうかによって区分していますので、ご注意ください。

項目人身事故物損事故
身体的被害ありなし
慰謝料請求できる請求できない
警察の処置実況見分あり実況見分なし
違反点数加算される例外を除き加算されない
示談交渉休業損害や後遺障害による逸失利益も請求できる物損(車両や積荷、携行品など)に対する賠償請求しかできない

身体的被害の違い

1つ目の違いは、事故による身体的被害の有無です。

警察庁は、交通事故を以下のように定義しています。

「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故をいう。

交通事故のうち、何らかの身体的被害(ケガ、障害、死亡など)が伴うものは人身事故として扱われ、それ以外のものは物損事故として扱われます。

参考: 『用語の解説』
URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/yougo.html

慰謝料の違い

2つ目の違いは、慰謝料を請求できるかどうかです。

慰謝料とは、民法第710条で定められた”財産以外の損害”(肉体的・精神的苦痛など)に対する賠償です。そのため一部の例外を除いて、人への損害が発生しない物損事故で慰謝料を請求することはできません。

物損事故の示談交渉では、主に車両や積荷、携行品など、物に対する損害賠償を請求します。人身事故でも車両などに損害が発生した場合は、慰謝料と合わせて賠償請求を行うことが可能です。

参考: 『民法』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

警察の処置の違い

3つ目の違いは、事故後の警察の対応の違いです。

人身事故が起きた場合、警察は実況見分を行い、加害者・被害者の立ち会いの下で事故の経緯を詳しく調査します。調査結果は実況見分調書としてまとめられ、被害者も取得することが可能です。実況見分調書は、示談交渉における過失割合(事故に対する責任の割合)の話し合いなどに役立ちます。

一方、物損事故では実況見分が行われません。簡単な報告書(物件事故報告書)のみが作成され、被害者は事故の正確な状況を把握しにくくなります。

違反点数の違い

4つ目の違いは、加害者に対し違反点数がつくかどうかです。

人身事故の場合、加害者は違反点数がつき、累計の違反点数次第で行政責任(免許の取消や停止など)を問われる可能性があります。一方、物損事故の加害者側は、一部の例外を除いて行政責任を問われません。

例えば人身事故の加害者は、事故状況に応じて違反点数が加算され、基準を超えると免許の取消や停止などのペナルティを受けます。

物損事故の場合、当て逃げや建造物の損壊などの例外を除き、事故を起こしても違反点数は加算されません。

示談交渉の違い

5つ目の違いは、事故後の示談交渉の流れです。

人身事故の場合、まる事故によるケガや障害の治療を行ってから、加害者側の保険会社と示談交渉を行います。示談交渉が始まるタイミングは、一定期間治療を継続し、完治または症状が変化しない状態(=症状固定)に至った後です。後遺障害が残存した場合には、後遺障害の等級認定の結果を待ってから示談交渉を開始するのが一般的です。

一方、物損事故の示談交渉は、車両や積荷、携行品などの損害額が確定した段階で行われます。示談交渉に必要な書類も、修理費用や買い替え費用などが分かるものがあればよく、人身事故よりも少ないのが特徴です。

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人身事故と物損事故の共通点

人身事故と物損事故には、事故後の警察への報告義務や、示談交渉が成立しなかったときの対応など、いくつか共通点もあります。

特に事故直後は、人身事故として処理するか物損事故として処理するかにかかわらず、警察への連絡や安全の確保を行いましょう。また、示談交渉を円滑に進めるため、相手方の連絡先を聞いておくことも大切です。

警察への連絡の必要性

交通事故に遭ったら、人的被害の有無にかかわらず、必ず警察に連絡しましょう。

警察への届け出は、加害者か被害者にかかわらず、道路交通法第72条第1項で定められた事故当事者の義務です。周囲の安全を確認した上で、すみやかに警察に通報しましょう。

ただし、私有地で起きた物損事故については、警察に届け出を行う義務はないとされています。

参考:  『道路交通法』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

相手の連絡先の確認

今後の示談交渉のため、加害者の連絡先を確認することも大切です。

人身事故や物損事故では、事故後に示談交渉を行い、相手方に対して、事故で生じた損害の賠償を請求することになります(ただし、相手方に過失がない場合には損害の賠償を請求することはできず、こちらが相手方に生じた損害を賠償する責任を負います)。示談交渉をするためには、相手といつでも連絡が取れるように氏名や住所、電話番号などを聞いておく必要があります。

  • 相手方の氏名
  • 住所
  • 連絡先
  • 相手車両の登録ナンバー
  • 加入している保険会社
  • 保険契約の証明書番号など

また相手方が営業活動中に事故を起こした場合は、勤務先に関する情報も聞いておきましょう。民法715条1項に基づいて、相手方の勤務先に対しても、事故で生じた損害の賠償を請求できる余地があるからです。

示談交渉

交通事故の被害に遭うと、加害者側の保険会社から損害賠償額を提示され、示談交渉を行うことになります。この流れは人身事故・物損事故で変わりません。

交通事故における損害賠償請求権は、物損事故の場合、損害および加害者を知った時から3年、人身事故の場合5年の時効が設定されています。相手方との示談が成立しないと、消滅時効を迎えてしまい、損害賠償金を受け取れなくなるリスクがあります。

示談交渉がまとまらない場合は、裁判や調停といった選択肢もあるため、弁護士に相談しましょう。

人身事故を物損事故として処理するデメリット

人身事故を物損事故として届け出ると、以下のようなデメリットがあります。

  • 示談金が減る可能性がある
  • 入通院や治療に対する補償を受けられなくなる可能性がある
  • 後遺障害認定を受けられなくなる可能性がある

特にケガや後遺症を負った方は、慰謝料を請求できない、入通院にかかった費用の補償を受けられない、といった大きなデメリットがあるため、人身事故として届け出ましょう。

示談金が減る可能性がある

1つ目のデメリットは、本来なら受け取れる示談金を相手に請求できない恐れがあるという点です。

交通事故によってけがをしたのに、人身事故として届け出ず、物損事故扱いにしていると、けがの程度がたいしたことはないと相手方の保険会社に判断されて、通院の必要性を認めてもらえず、慰謝料が低額になったり、十分な休業損害を補償してもらえない場合があります。

このように示談金が減ってしまう可能性があるため、事故で人的被害が発生した場合は人身事故として届け出ましょう。

入通院や治療に対する補償を十分に受けられなくなる可能性がある

2つ目のデメリットは、入通院が長引いた場合に、治療費の支払いを打ち切られる可能性が高くなります。物損事故として届け出ていると、けがの程度が軽微と判断されて、早期に治療費の支払いを打ち切られてしまう可能性があります。

事故後に治療を行う必要を感じた場合は、物損事故から人身事故への切り替えを行いましょう。

後遺障害認定を受けられなくなる可能性がある

3つ目のデメリットは、事故で後遺障害を負った場合に、認定を受けられない可能性があるという点です。

交通事故の慰謝料には、後遺障害を負ったことに対する後遺障害慰謝料があります。後遺障害慰謝料を請求するには、損害保険料率算出機構に申請し、後遺障害の認定を受けなければなりません。

物損事故扱いの場合も申請自体は可能ですが、申請時に人身事故扱いの交通事故証明書を提出できません。物損事故として届け出た(人的被害が皆無か、軽微だった)ことが認定機関に伝わるため、後遺障害の認定を受けにくくなります。

物損事故から人身事故へ切り替えるときの流れ

事故後に物損事故として届け出てしまっても、後で人身事故に切り替えることが可能です。物損事故から人身事故へ切り替える場合の流れは以下のとおりです。

1.病院で診断書をもらう

2.警察署で人身事故へ切り替えてもらう

3.実況見分捜査を受ける

4.保険会社へ連絡する

事故に遭ってから時間が経つと、人身事故として処理するのが難しくなる可能性があるため、なるべく早めに切り替えを行いましょう。

病院で診断書をもらう

人身事故への切替手続きには、医師による診断書が必要です。痛みやしびれなどの症状を自覚したら、すぐに病院で診察を受け、医師による診断書をもらいましょう。

事故から日数が経過した場合、現在の症状と事故との因果関係を証明するのが難しくなるので、なるべく早めに病院に行きましょう。

警察署で人身事故へ切り替えてもらう

次に、警察署へ診断書を提出し、人身事故扱いに変更してもらいましょう。提出先はどの警察署でもよいわけではなく、事故処理を担当した警察署である必要があります。

また警察署を訪問する前に、担当の警察官が署内にいるかどうかを電話などで確認することをおすすめします。不安な場合は、必要な書類や手続きなども質問しましょう。

保険会社へ連絡する

人身事故に切り替えたら、加害者側の任意保険会社に連絡し、情報を共有する必要があります。

物損事故扱いから人身事故扱いへの切り替えで分からないことがある場合は、交通事故問題に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ

人身事故か物損事故かによって、被害者が事故後に受けられる補償が変わってきます。特にケガや障害を負った場合、物損事故として届け出ると、十分な補償を受けることができなくなるおそれがあります。なるべく早めに病院で診断書をもらい、人身事故への切り替えを行いましょう。

人身事故の被害に遭った方は、弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。琥珀法律事務所では、相手方の保険会社との示談交渉はもちろん、後遺障害(後遺症)が残った場合の対応もサポートいたします。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】