交通事故で怪我や障害を負った場合、自動車損害賠償保障法第3条、民法第709条・710条に基づいて相手方に慰謝料を請求できます。もっとも、慰謝料の請求といっても、どのようにして慰謝料を計算するのか、慰謝料の相場はいくらなのか、ご存じない方もおられるのではないでしょうか。
慰謝料は、算定に用いる基準によって金額が変わります。自賠責保険の基準や保険会社ごとの基準ではなく、弁護士基準を採用すれば、前2者の基準に比べて高額の慰謝料を受け取る可能性が高くなります。
この記事では、交通事故における慰謝料の種類や相場、計算するときの基準についてご紹介します。
交通事故の際に請求できる慰謝料の種類
交通事故の際に請求できる慰謝料の種類は、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3つに分けることができます。それぞれの違いや慰謝料を請求できるケース、慰謝料の金額の決め方などを解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、傷害慰謝料とも呼ばれ、交通事故が原因で負傷し、入院や通院が必要になったときに請求できる慰謝料です。交通事故の怪我によって生じた精神的・肉体的苦痛を賠償する役割があります。
ただし、精神的苦痛は、人ごとに異なり、数字で表すことは困難ですので、入通院慰謝料の金額は入院・通院に要した期間・実入院・通院日数に基づいて決まります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺症慰謝料とも呼ばれ、交通事故によって後遺障害(後遺症)が生じたときに請求できる慰謝料です。
交通事故が原因で後遺障害が生じた場合、治療を継続してもこれ以上症状が良くも悪くもならない状態(=症状固定)に達するまでの入通院慰謝料に加えて、症状固定後に認定された後遺障害の等級に基づいた慰謝料(これを後遺障害慰謝料といいます。)を請求できます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故によって近親者が死亡したときに請求できる慰謝料です。
死亡慰謝料は、まず被害者本人への賠償として発生し、相続人となる方が慰謝料請求権を相続する形式で請求可能です。また、被害者本人に対する死亡慰謝料とは別に、近親者の方が請求できる近親者固有の慰謝料も民法第711条に基づいて発生します。
民法第711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない
死亡慰謝料の金額は、被害者が生前に果たしていた家庭内での役割によって決まります。
交通事故の慰謝料でお困りの方は、お気軽にご相談ください!
交通事故の慰謝料を計算するときの基準
交通事故の慰謝料は、どの算定基準を用いるかによって金額が変わります。ここでは、慰謝料の計算に使われる3つの基準をご紹介します。
- 自賠責基準
- 任意保険基準(保険会社基準)
- 弁護士基準(裁判基準)
自賠責基準
自賠責基準とは、車やバイクを運転する方が加入しなければならない自賠責保険に基づいた算定基準です。自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的としていますが、あくまでも最低限の救済にとどまります。そのため、3つの算定基準の中でも、自賠責基準による慰謝料の金額は最も低廉であり、交通事故による被害を全て補償するのは難しくなっています。
任意保険基準
任意保険基準とは、保険会社基準とも呼ばれ、各保険会社が独自に決める慰謝料の算定基準です。交通事故の加害者が任意保険に加入しており、自賠責保険だけでは交通事故の損害を補償できない場合に適用されます。
基本的に任意保険基準は非公開であり、具体的な慰謝料の計算方法は分かっていません。保険会社によっては、慰謝料の金額が自賠責基準とほとんど変わらない場合もあります。
弁護士基準
弁護士基準とは、裁判基準とも呼ばれ、3つの算定基準の中で最も慰謝料が高額になる基準です。弁護士基準は、交通事故紛争が裁判によって解決した際の判決内容と同等の基準であり、
交通事故の示談交渉にあたって、弁護士が使用する基準でもあります。少しでも多く慰謝料を受け取りたい場合は、自賠責基準や任意保険基準ではなく、弁護士基準を用いることが必要です。
【早見表】交通事故の慰謝料相場
ここでは、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の相場を一目で分かる早見表でご紹介します。ただし、任意保険基準は詳しい算定式が公開されていませんので、自賠責基準や弁護士基準に基づいて計算します。
交通事故の被害に遭った方は、まず慰謝料の大まかな目安を把握しましょう。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料の相場は、入院・通院した期間や日数によって変わってきます。通院期間別に入通院慰謝料の相場をまとめた早見表は以下のとおりです。
通院期間(通院日数) | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1カ月(合計10日程度) | 8万6000円 | 軽症:19万円重症:28万円 |
2カ月(合計20日程度) | 17万2,000円 | 軽症:36万円重症:52万円 |
3カ月(合計30日程度) | 25万8,000円 | 軽症:53万円重症:73万円 |
4カ月(合計40日程度) | 34万4,000円 | 軽症:67万円重症:90万円 |
5カ月(合計50日程度) | 43万円 | 軽症:79万円重症:105万円 |
6カ月(合計60日程度) | 51万6,000円 | 軽症:89万円重症:116万円 |
自賠責基準の場合、日額4,300円を基準として、治癒するまで又は症状が固定されるまでの入通院日数を考慮して慰謝料を算定します。弁護士基準を用いる場合は、人身被害の程度が軽症(むち打ち症で他覚所見がない場合、軽い打撲・軽い挫創の場合)か重症かによって慰謝料算定基準が異なります。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の相場は、認定された後遺障害等級によって変わります。また介護が必要な後遺障害の場合、自賠責基準では慰謝料が高くなります。後遺障害等級別に後遺障害慰謝料の相場をまとめた早見表は以下のとおりです。
【介護が必要な場合】
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1,650万円 | 2,800万円 |
2級 | 1,203万円 | 2,370万円 |
【介護が不要な場合】
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1,150万円 | 2,800万円 |
2級 | 998万円 | 2,370万円 |
3級 | 861万円 | 1,990万円 |
4級 | 737万円 | 1,670万円 |
5級 | 618万円 | 1,400万円 |
6級 | 512万円 | 1,180万円 |
7級 | 419万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
このように弁護士基準を用いれば、自賠責基準よりも高額な慰謝料を確保することが期待できます。また弁護士基準なら、介護を要しない後遺障害を負った場合でも、介護を要する場合と同等の慰謝料を請求することが可能です。
死亡慰謝料の相場
自賠責基準の場合、死亡慰謝料は本人(死亡した方)の分、遺族(近親者)の分を個別に計算します。弁護士基準を用いる場合は、本人の慰謝料と遺族の慰謝料を合わせて計算します。
死亡慰謝料の相場をまとめた早見表は以下のとおりです。死亡慰謝料は、家庭内での役割や扶養家族の有無などによって変わります。
【自賠責基準】
本人の慰謝料 | 400万円 | |
遺族の慰謝料 | 遺族1人 | 550万円扶養家族がいる場合:750万円 |
遺族2人 | 650万円扶養家族がいる場合:850万円 | |
遺族3人以上 | 750万円扶養家族がいる場合:950万円 |
【弁護士基準】
本人の家庭内での役割 | 金額(合算) |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
配偶者・母親 | 2,500万円 |
その他 | 2,000~2,500万円 |
交通事故の慰謝料とは?
交通事故の慰謝料とは、そもそも何のためのものなのでしょうか。ここでは慰謝料の法的な意味や、慰謝料を請求できないケース、慰謝料以外に請求できるものについてご紹介します。
慰謝料の意味
そもそも慰謝料とは、民法第710条における財産以外の損害(精神的苦痛など)に対する賠償を意味します。
”他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。”
交通事故の場合は、被害者が負った怪我や障害(に伴う精神的苦痛)の程度に応じて、相手方が慰謝料を支払います。
事故の種類 | 慰謝料の種類 |
---|---|
人身事故(後遺障害なし) | 入通院慰謝料 |
人身事故(後遺障害あり) | 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料 |
死亡事故 | 死亡慰謝料、入通院慰謝料(死亡までの間に入通院していた場合) |
参考: 『民法 第七百十条』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
慰謝料を請求できないケース
交通事故の種類によっては、相手方に慰謝料を請求できないケースがあります。怪我や障害などの人身被害が伴わない物損事故です。
物損事故に遭った場合は、慰謝料の代わりに損害賠償を請求できます。例えば、車の修理費や代車使用料、新車への買い替え費用、休車損害(車が使えないことが原因で生じた損害)などを相手方に請求可能です。
物損事故に伴う精神的苦痛は、この損害賠償によって補填されたと解釈されるため、原則として慰謝料は請求できません。
ただし、例えば、交通事故によって希少性の極めて高い美術品が損壊した場合や位牌が損壊した場合等については、物に対する賠償だけでは精神的苦痛を慰謝するに足りないとして、例外的に慰謝料が認められることもあります。
慰謝料以外に請求すべきもの
交通事故の慰謝料は、相手方に請求できる賠償の一部でしかありません。
交通事故の被害者が請求できる賠償には、慰謝料のほか、怪我や障害の治療に要した治療費や休業損害(休業によって生じた損害)、逸失利益(後遺障害によって今後失われる利益)、車両の修理費、代車費用、レッカー費用などがあります。
相手方との示談交渉では、慰謝料だけでなく、あらゆる損害についても交渉していくことになります。示談交渉の前に、慰謝料以外に請求できるものについてイメージしておきましょう。
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交通事故の慰謝料を請求するときの注意点
交通事故の慰謝料を請求するときの注意点は3つです。
- 弁護士基準を採用する
- 病院で診断書をもらう
- 慰謝料額を正確に計算する
ただし、弁護士基準を用いた慰謝料の増額交渉を本人が行っても簡単には認めてもらえませんので、困った場合は弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士基準を採用する
1つ目の注意点は、弁護士基準を採用することです。
慰謝料の算定に使われる基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があります。3つの基準の中で、慰謝料の金額が最も高くなるのは弁護士基準です。
しかし、示談交渉の場において、一般的に相手方の保険会社は自賠責基準や任意保険基準に基づいて慰謝料を提示します。相手方との交渉を通じて、弁護士基準まで慰謝料を増額できるか(増額交渉)がポイントです。
病院で診断書をもらう
2つ目の注意点は、病院で診断書をもらうことです。
慰謝料を受け取るためには、医師が作成した診断書が必要になります。診断書は警察署に提出し、人身事故として処理してもらうために必要な書類でもあります。診断書を提出しないと物損事故として処理されるため、場合によっては相手方に慰謝料を請求しにくくなることもあります。
また、交通事故で後遺障害を負った場合は、診断書(後遺障害診断書)がなければ、後遺障害等級の認定も受けられません。
自分で増額交渉するのは難しい
3つ目の注意点は、慰謝料額を正確に計算することです。
自賠責基準を用いるにせよ、弁護士基準を用いるにせよ、慰謝料額の計算が誤っている場合には、適切な賠償を受けることができなくなるおそれがあります。したがって、ご自身で計算する場合には、実入院日数・実通院日数・入通院期間の3つを把握した上で、正確に計算しなければなりません。
なお、高額の慰謝料を請求するには弁護士基準を用いる必要がありますが、被害者本人が弁護士に依頼することなく、弁護士基準に基づいて慰謝料を計算・請求しても、相手方の保険会社が認めてくれるとは限りません。
そのため、弁護士基準によって慰謝料を請求する場合は、弁護士に相談しましょう。
交通事故の慰謝料が増えるケース・減るケース
交通事故の慰謝料は、加害者や被害者の行動によって増減する可能性があります。ここでは、交通事故の慰謝料が増えるケースと減るケースをそれぞれご紹介します。
慰謝料が増えるケース
慰謝料が増えるのは、加害者に故意や重大な過失が認められるケースです。
- 飲酒運転や無免許運転、著しいスピード違反、悪質なあおり運転など加害者に故意または重大な過失があったケース
- 加害者の態度が著しく不誠実なケース
また、被害者側の事情を考慮して慰謝料の増額が認められるケースもあります。例えば、被害者の親族が精神疾患に罹患したケースや被害者が繰り返し手術を受けざるを得ず、多大な精神的苦痛が発生したケース、交通事故の怪我や障害が原因で被害者が退職や留年になったケースなどです。
慰謝料の増額についてお悩みの方は、弁護士に相談しましょう。
慰謝料が減るケース
慰謝料が減るケースは、主に被害者側の過失が原因となるケースです。
- 病院には通院せず、接骨院・整骨院にだけ通院した
- 怪我や障害の治療に非協力的で、毎月の通院回数が少ない、又は、不定期だった
- 被害者にも交通事故の原因があり、過失割合が認められた
- 交通事故とは関係なく、被害者の持病によって怪我や障害が悪化した
こうしたケースに当てはまる場合でも、あきらめずに弁護士と相談しましょう。減額を免れられない場合でも、交渉によって減額の幅を小さくできる可能性があります。
慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリット
慰謝料に関する交渉なら、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に相談すると、2つのメリットを得られます。
- 弁護士基準が認められやすい
- 示談交渉を一任でき、交渉の手間から解放される
弁護士に依頼すると、弁護士基準での慰謝料算定が認められやすいだけでなく、トラブルに発展しやすい示談交渉を一任することが可能です。
弁護士基準が認められやすい
1つ目のメリットは、弁護士基準による慰謝料の増額交渉が認められやすいことです。
ご自身で示談交渉する場合、相手方の保険会社は自賠責基準や任意保険基準に基づいて慰謝料を提示することが一般的です。慰謝料の金額が少ないと感じたら、まずは弁護士に相談しましょう。
示談交渉を一任できる
2つ目のメリットは、相手方との示談交渉を弁護士に一任できることです。
専門的な知識がないままにご自身で示談交渉に臨むと、相手方に言いくるめられてしまうことがあります。また、示談交渉のやりとりが精神的な負担になることも少なくありません。弁護士に依頼すれば、煩雑な示談交渉を一任でき、ご自身で行う場合に比べて、相手方との交渉を円滑かつ有利に進めることが可能です。
まとめ
交通事故によって怪我や障害を負ったら、その精神的苦痛の賠償として慰謝料を請求できます。慰謝料の金額は、適用される算定基準によって変わります。示談交渉をご自身で進めることに不安を感じている方、適切な賠償金を確保したいとお考えの方、相手方保険会社から提示された賠償金が適切かどうかわからないという方は、弁護士に相談・依頼することを検討しましょう。
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【経歴】
2008年 | 弁護士登録 |
2010年 | 主に労働事件を扱う法律事務所に入所 |
2011年 | 刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる |
2012年 | 琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当 |
2014年 | 青梅市役所法律相談担当 |
2015年 | 弁護士法人化 代表弁護士に就任 |
2022年 | 賃貸不動産経営管理士試験 合格 2級FP技能検定 合格 宅地建物取引士試験 合格 |
2024年 | 保育士試験 合格 (令和5年後期試験) 競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験) |
【その他のWeb活動】
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