交通事故の慰謝料の計算方法は?種類ごとの計算方法をわかりやすく解説

交通事故の慰謝料の計算方法は?種類ごとの計算方法をわかりやすく解説

交通事故の被害に遭って怪我をしたら、その肉体的・精神的苦痛を慰謝料として請求できます。示談交渉においては、慰謝料の金額を相手方との話し合いによって決定します。とはいえ、どのように慰謝料を計算すればよいのか、ご存じない方も多数おられるのではないでしょうか。

交通事故の慰謝料計算に関して、自賠責基準や任意保険基準(保険会社基準)、弁護士基準(裁判基準)の3つの基準を知っておくと有用です。この記事では、交通事故で請求できる3種類の慰謝料やそれぞれの計算方法、慰謝料計算を弁護士に依頼するメリットについてご紹介します。

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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

交通事故の慰謝料とは?

交通事故の慰謝料は、事故によって負傷した場合に生じる肉体的・精神的苦痛に対する賠償です。慰謝料は、民法第710条の「財産以外の損害の賠償」に該当します。

慰謝料を請求できるのは、基本的に人への損害が発生した人身事故に限られます。物損事故の場合は、原則として車両や積荷、携行品などの物に対する損害賠償しか請求できません(物損事故でも例外的に慰謝料請求が認められる場合がありますが、ここでは割愛します)。

交通事故の慰謝料は、事故で負った傷害に対する入通院慰謝料(傷害慰謝料)、事故の後遺症に対する後遺障害慰謝料(後遺症慰謝料)、本人または家族が死亡した場合の死亡慰謝料の3つに分けられます。

参考:『民法第710条』
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

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交通事故の慰謝料を計算するときの3つの基準

交通事故の慰謝料を計算するときは、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準が使われます。

計算方法特徴
自賠責基準自賠責保険における損害額算定のための基準。他の基準よりも補償額が低廉。
任意保険基準保険会社が決めた独自の基準であり、基準の内容は非公表。
弁護士基準多くの裁判所が重要な参考資料としている基準であり、弁護士実務の指針。

自賠責基準

自賠責基準とは、自動車損害賠償保障法で定められた自賠責保険における損害額を算定する際に使用する基準です。交通事故による傷害・後遺障害・死亡に対して保険金が支払われますが、それぞれに支払限度額が設定されています。具体的には、傷害による損害(入通院慰謝料、休業損害、治療関係費)の支払限度額は120万円、後遺障害による損害(逸失利益、後遺障害慰謝料)の支払限度額は75万円~4000万円(後遺障害の等級によって異なります)、死亡による損害(葬儀費、逸失利益、死亡した本人の慰謝料、遺族の慰謝料)の支払限度額は3000万円となっています。

自賠責基準による補償は最低限の補償であり、他の2つの基準よりも低額です。例えば、入通院慰謝料は、1日につき4300円となっています。

参考: 『限度額と補償内容』
URL:https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html

任意保険基準

任意保険基準とは、保険会社基準とも呼ばれ、保険会社が独自に設定している損害額の算定基準です。

交通事故に遭ったら、相手方の保険会社は、任意保険基準によって慰謝料を計算し、被害者に提示してきます。この提示額に納得がいかない場合は、相手方の保険会社と交渉することになりますが、こちらが法的に合理的な根拠を示さない限り、簡単に賠償額の増額には応じてくれません。

慰謝料額が自賠責基準よりは高額となるものの、次項で紹介する弁護士基準よりは低額となるのが任意保険基準です。

弁護士基準

弁護士基準とは、裁判基準とも呼ばれ、多くの裁判所が重要な参考資料としている基準です。

弁護士基準による慰謝料計算においては、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という書籍(赤い本と呼ばれています)が一般的に用いられています。

弁護士基準を採用すると、3つの基準の中で最も慰謝料が高額になります。

【種類別】交通事故の慰謝料相場と計算方法

先述のとおり、交通事故に遭った際の慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。ここでは交通事故の3つの慰謝料について、自賠責基準と弁護士基準に基づいた相場をご紹介します。

交通事故の慰謝料自賠責基準弁護士基準
入通院慰謝料最大38万7,000円
※入院1カ月、通院2カ月(治療期間90日)の場合
98万円
※入院1カ月、通院2カ月(治療期間90日)の場合
後遺障害慰謝料998万円
※後遺障害等級が2級の場合
2,370万円
※後遺障害等級が2級の場合
死亡慰謝料950万円
※被害者本人が死亡し、遺族が1人の場合(遺族への慰謝料も含む)
2,800万円
※死亡した方が一家の経済的な支柱だった場合(遺族への慰謝料も含む)

任意保険基準は、慰謝料の算定基準が公表されていないため、明確な数字を算出することができません。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、事故後に治療を要した期間によって金額が変わります。自賠責基準、弁護士基準の計算方法はそれぞれ以下のとおりです。

自賠責基準1日あたり4300円を基本として、
「入院日数と通院期間を合計した日数」と「入院日数と実通院日数の2倍を合計した日数」
のいずれか少ない日数を乗じて計算します。
弁護士基準赤い本を参考に、入通院の期間・実入通院日数を考慮して計算する

例えば、事故によって骨折した場合の治療期間が合計90日で、そのうち30日が入院日数、20日が実通院日数、通院期間60日だったとします。自賠責基準の場合、入通院慰謝料の金額は以下のとおりです。

  • 入院日数と通院期間を合計した日数は30日+60日=90日、入院日数と実通院日数の2倍を合計した日数は30日+20日×2=70日となりますので、計算式は下記になります。

4300円×70日=30万1000円

一方、弁護士基準の場合、入院1か月、通院2か月を前提として赤い本に基づいて計算した98万円が入通院慰謝料となります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料の金額は、自賠責基準・弁護士基準ともに、認定された後遺障害等級によって変わります。後遺障害等級とは、傷害の内容や程度に応じて、介護を要する場合は第1級から第2級まで、それ以外の場合は第1級から第14級まで、後遺障害(後遺症)の等級を分類した表です。

後遺障害等級に基づいた慰謝料の金額は以下の表のとおりです。

後遺障害の等級自賠責基準弁護士基準
1級1,150万円2,800万円
2級998万円2,370万円
3級861万円1,990万円
4級737万円1,670万円
5級618万円1,400万円
6級512万円1,180万円
7級419万円1,000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

※介護を要しない後遺障害の場合

例えば後遺障害等級が2級と認定された場合、自賠責基準による慰謝料は998万円、弁護士基準による慰謝料は2,370万円となります。

死亡慰謝料

死亡慰謝料が認められた場合、亡くなった被害者本人とその遺族(近親者)に対し、それぞれ慰謝料が支払われます。死亡慰謝料は、弁護士基準を採用する場合と自賠責基準を採用する場合で、差が大きくなりやすい慰謝料です。

自賠責基準の場合、被害者本人の慰謝料は400万円に固定され、遺族(被害者の父母、配偶者、子ども)の慰謝料は人数に応じて変わります。また被害者に被扶養者がいる場合、死亡慰謝料に200万円が加算されます。

例えば遺族が1人、被扶養者がいない場合の死亡慰謝料は以下のとおりです。

400万円+550万円=950万円

一方弁護士基準の場合、被害者の家庭内の立ち位置に応じて、死亡慰謝料の金額(遺族への慰謝料も含む)が変わります。

一家の支柱の場合2,800万円
母親、配偶者の場合2,500万円
その他の場合2,000万円〜2,500万円

例えば一家の経済的な支柱である方が亡くなった場合、死亡慰謝料の総額は2,800万円です。

参考:『限度額と補償内容』
URL:https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html

交通事故で請求できる慰謝料以外の損害賠償金

交通事故の示談交渉では、慰謝料以外にも以下の損害賠償金を請求することが可能です。

損害賠償金内容具体例
積極損害交通事故に遭った結果、被害者側が支出を余儀なくされた損害治療費、通院交通費、通院付添費・入院付添費、入院雑費、特別室使用料、装具・器具の費用など
消極損害交通事故に遭った結果、本来得られる収入が減少したことで生じた損害休業損害(休業補償)、逸失利益など

ここでは、積極損害・消極損害の定義や具体例、請求できるケースについて解説します。

積極損害

積極損害とは、治療費や通院交通費など、交通事故によって直接的に生じた出費を指します。積極損害の中でも、大きな割合を占めるのが治療費です。ただし治療費の補償は、交通事故と因果関係のある怪我や障害しか認められず、過剰診療や高額診療は損害賠償の対象になりません。

過剰診療医学的な観点から、治療する必要性や合理性のない診療行為
高額診療一般的な水準と比べて、治療費が著しく高額な診療行為

その他、通院するための交通費(通院交通費)や、近親者などに付き添いを頼む費用(通院付添費・入院付添費)、入院時の雑費(入院雑費)などの費用を積極損害として請求できます。

消極損害

消極損害とは、交通事故の影響により、本来得られたはずの利益が失われたことで生じる損害を指します。消極損害は、大きく休業損害(休業補償)と逸失利益の2つに分けられます。

消極損害の種類内容
休業損害(休業補償)怪我や障害によって働けなくなった期間に減少した収入のこと
逸失利益死亡・事故の後遺症などによる労働能力の全部又は一部喪失に伴って失った、
将来にわたって得られたはずの利益

休業損害は、1日当たりの基礎収入(事故前の収入額)と、事故によって仕事を休業した日数(休業日数)の2つを用いて計算します。

逸失利益に該当するのは、後遺症による後遺障害逸失利益と、死亡による死亡逸失利益の2種類です。こちらも原則として被害者の基礎収入に基づいて、事故によって失われた利益を計算します。

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交通事故の慰謝料計算における注意点

交通事故の慰謝料計算で注意したいのが、以下の4つのポイントです。

  • 慰謝料の対象期間
  • 入通院の日数と慰謝料の関係
  • 治療期間と慰謝料の関係
  • 慰謝料請求権の時効

慰謝料は、対象となる期間が決まっており、対象期間の通院回数や日数に基づいて金額を計算する必要があります。また慰謝料の請求権(損害賠償請求権)には時効があるため、消滅時効を迎えると慰謝料を請求できない点にも注意しなければなりません。

慰謝料の対象期間

まずは、慰謝料の対象となる期間です。

慰謝料の対象期間は、怪我の治療が終了し、治癒または治療しても効果がなく、症状が変わらない状態になった日(症状固定日)を一区切りとして決まります。

慰謝料の種類対象期間
入通院慰謝料事故の発生日から治療終了日又は症状固定日まで
後遺障害慰謝料症状固定日以降(後遺障害等級認定によって発生)

症状固定日が確定すると、それ以上治療を継続しても入通院慰謝料は請求できません。一方、後遺障害慰謝料は、症状固定日以降に後遺障害の等級認定がなされることによって発生し、認定される等級によって慰謝料額が異なります。後遺障害の等級認定がなされない場合(後遺障害として認められない場合)、原則として後遺障害慰謝料は発生しません。

入通院の日数と慰謝料の関係

次に注意したいのが、慰謝料の対象期間における入通院の日数です。入通院の日数は、入通院慰謝料を計算するにあたって重要です。

一般的に、入通院の日数が多いほど入通院慰謝料は高くなりますが、過剰診療とならないように気をつけなければなりません。例えば、怪我の程度が極めて軽微であるのに毎日通院した場合には、過剰診療と判断されやすく、入通院日数が慰謝料額に反映されないばかりか、治療費も途中から支払われなくなるおそれがあります。そのため、医師の指示にしたがって通院しましょう。

治療期間と慰謝料の関係

治療期間が長いほど入通院慰謝料は高くなる傾向にありますが、不必要に治療期間が長いと判断されると、例えば、怪我の程度が極めて軽微であるのに長期にわたって通院した場合には、過剰診療と判断されやすく、通院期間が慰謝料に反映されないばかりか、治療費も途中から支払われなくなるおそれがあります。

また、事故後最初の1か月は25日、2か月目は1日、3か月目は15日通院したような場合には、不規則通院と判断され、合理的な理由がない限り、過剰診療と同様に治療の必要性と相当性を否定されるおそれがあります。

慰謝料請求権の時効

慰謝料などの損害賠償を請求する権利のことを損害賠償請求権といいます。損害賠償請求権には、一定期間が経つと権利が消滅する消滅時効が民法に定められています。加害者に慰謝料を請求したい場合は、消滅時効を迎える前に損害賠償請求権を行使しなければなりません。

損害賠償請求権の消滅時効は、人身事故(生命や身体を害する事故)か、物損事故かによって変わります。それぞれの消滅時効は以下のとおりです。なお、消滅時効の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から」と定められています(民法第724条)。基本的には、事故発生日の翌日が起算点になりますが、後遺障害慰謝料とその逸失利益については症状固定日の翌日になります。

交通事故の種類消滅時効
人身事故5年
物損事故3年

交通事故の慰謝料計算を弁護士に依頼するメリット

交通事故の慰謝料計算に自信のない方は、弁護士に相談しましょう。弁護士に依頼するメリットは3つあります。

  • 弁護士基準で請求できる
  • 適切な過失割合を主張できる
  • 請求漏れを防止できる

弁護士なら慰謝料の計算漏れの心配がなく、また、保険会社を相手とした増額交渉も可能です。

弁護士基準で請求できる

1つ目のメリットは、弁護士基準で慰謝料を請求できる点です。

弁護士基準によって慰謝料を計算すれば、自賠責基準や任意保険基準よりも慰謝料を増額できる可能性があります。しかし、法律や過去の裁判例についての専門知識を持たない方が、弁護士基準に基づいて慰謝料を主張しても、相手になかなか受け入れられないのが実情といえます。

慰謝料を少しでも増額したい方は、弁護士に相談しましょう。

適切な過失割合を主張できる

2つ目のメリットは、示談交渉の際に適切な過失割合を主張できる点です。

過失割合とは、事故の原因に対する加害者・被害者双方の責任割合のことです。被害者側にも過失が認められると、その割合に応じて慰謝料などの賠償額が減額されます。

保険会社によっては、加害者の言い分を鵜吞みにして加害者側に有利な過失割合を主張してくるケースもあります。しかし、弁護士に示談交渉を依頼すれば、専門的な知識によって事故状況等を分析し、適切な過失割合を主張して反論することが可能です。

請求漏れを防止できる

3つ目のメリットは、賠償金の請求漏れを防止できる点です。

交通事故による損害には、慰謝料のほか、治療費や通院交通費、通院付添費・入院付添費、入院雑費、休業損害や後遺症による逸失利益など、様々なものが含まれます。これらを正確に計算して請求することは容易ではありません。

しかし、弁護士に相談すれば、こうした賠償金を抜け・漏れなく正確に算定して請求することができます。

まとめ

交通事故の慰謝料は、自賠責基準や任意保険基準(保険会社基準)、弁護士基準(裁判基準)という3つの基準によって計算します。入通院慰謝料は入通院日数や治療期間が、後遺障害慰謝料は認定された後遺障害等級が、それぞれ慰謝料の金額に影響します。

交通事故の被害に遭った方は、ぜひ弁護士法人琥珀法律事務所にご相談ください。慰謝料の計算はもちろん、弁護士基準に基づく増額交渉や、過失割合についての話し合い、後遺障害の認定手続きなども対応いたします。

琥珀法律事務所では、交通事故に関する
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この記事の監修者

弁護士:川浪 芳聖(かわなみ よしのり)

弁護士法人琥珀法律事務所 代表弁護士
所属:第一東京弁護士会

【経歴】

2008年弁護士登録
2010年主に労働事件を扱う法律事務所に入所
2011年刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる
2012年琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当
2014年青梅市役所法律相談担当
2015年弁護士法人化 代表弁護士に就任
2022年賃貸不動産経営管理士試験 合格
2級FP技能検定 合格
宅地建物取引士試験 合格
2024年保育士試験 合格 (令和5年後期試験)
競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験)

【その他のWeb活動】