交通事故のうち、怪我や死亡など人への損害を伴うものを人身事故と言います。人身事故に遭った場合は、相手方に慰謝料、休業損害等の損害賠償金を請求することが可能です。しかし事故後にどのような手続きが必要なのか、分からない方も多いのではないでしょうか。
事故後の対応が適切でないと、十分な損害賠償金を受け取れなくなるかもしれません。人身事故に遭ったときの対応方法を8つのステップで理解しましょう。
この記事では、人身事故の概要や物損事故との違い、事故後の対応の流れ、示談交渉を弁護士に依頼するメリットについて説明します。
人身事故とは?
交通事故には、人への損害を伴う人身事故とそれ以外の物損事故の2種類があります。警察庁によると、令和5年に発生した人身事故の件数は30万7,911件で、合計36万5,027人の負傷者が発生しています。
まずは人身事故の意味や、誤解されやすい物損事故との違いを知っておきましょう。
参考:『令和5年中の交通事故死者について』
URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html
人身事故の意味
人身事故は、警察庁によると「車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの」を意味します。
つまり人の負傷や死亡など、人への損害が発生した事故が人身事故です。それに対し、車両や携行品、積荷の破損など、物への損害が発生した事故を物損事故といいます。
人の損害と物の損害が同時に発生した場合は、物損事故ではなく人身事故として扱います。
参考:『用語の解説』
URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/yougo.html
人身事故と物損事故の違い
人身事故と物損事故の違いは以下の表のとおりです。
人身事故 | 物損事故 | |
---|---|---|
損害賠償を 請求できるもの | 慰謝料、治療費、通院交通費、 休業損害、逸失利益 (後遺障害逸失利益や死亡逸失利益)など | 車両の修理費、修理による評価損、 代車使用料、買い替え諸費用、 営業車両の休車損害、積荷損、 着衣・携行品〈時計、宝飾品、携帯電話〉 の修理・買い替え費用など |
損害賠償請求権の 消滅時効 | 損害および加害者を知った時から5年 | 損害および加害者を知った時から3年 |
人身事故は物損事故より損害賠償請求権の時効期間が長く、手厚く保護されています。
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人身事故に遭ったときの対応方法
人身事故に遭ったら、以下の流れに沿って対応しましょう。
- 警察に連絡する
- 事故の状況を記録しておく(怪我や車両の損傷部分、事故現場の写真を撮るなど)
- 加害者の氏名や住所を聞いておく
- 保険会社に連絡する
- 警察の事情聴取・取調べを受ける
- 病院で診察・治療を受ける
- 後遺障害等級の認定を受ける
- 損害賠償請求を進める
事故発生後、すぐに警察に通報した上で、事故状況の記録や加害者の連絡先の確認などを行いましょう。事故後の対応によっては、後に事故状況について争われたり、十分な賠償金を請求するのが難しくなったりする可能性があります。
警察に連絡する
まずは警察に連絡し、交通事故に遭ったことをすぐに報告しましょう。
警察への報告は、道路交通法において定められた運転者の義務です。加害者だけでなく被害者も、車を運転していたなら、事故の報告を行う必要があります。
また、警察への報告を怠ると、慰謝料や自賠責保険金(共済金)の請求に必要な交通事故証明書が発行されません。人身事故に遭ったら、必ず警察に報告し、なるべく早めに自動車安全運転センターから交通事故証明書の交付を受けてください。
人身事故の状況を記録しておく
次に必要なのは、事故直後の状況を正確に記録することです。
事故後の示談交渉では、双方の過失割合(事故に対する責任の割合)をめぐって、加害者側とトラブルに発展することがよくあります。
事故現場の状況が分かるように動画や写真を残しておくと、示談交渉の際に証拠として利用できます。車の運転中に事故に遭った場合は、ドライブレコーダーの映像を保存しておくと便利ですし、事故の相手の車にドライブレコーダーがついていないかも確認すると安心です。
加害者の氏名や住所を聞いておく
加害者側の氏名や住所、連絡先などを聞いておくことも大切です。
加害者と連絡が取れなければ、事故後に示談交渉を開始できません。加害車両のナンバーや、加入している保険会社(共済組合)名なども、事故後の保険会社とのやり取りで必要になってきます。
加害者が営業活動中に事故を起こした場合は、雇い主も賠償責任を負う可能性があります。そのため、加害者の勤務先(雇い主の氏名)、住所、連絡先なども確認しておきましょう。
保険会社に連絡する
任意保険(自動車保険)に加入している場合は、契約先の保険会社に連絡し、交通事故に遭った日時や場所、事故の経過などを伝えましょう。
保険契約によっては、加害者による損害賠償金とは別に保険金(医療保険金や後遺障害保険金、死亡保険金など)を保険会社から受け取ることができる可能性があります。
保険契約の保障内容を確認するためにも保険会社に連絡しましょう。警察への届け出と違って、保険会社への連絡は事故後すぐでなくても構いません。
警察の事情聴取・取調べを受ける
人身事故の被害に遭った場合、警察による事情聴取・取調べ(実況見分)を受けることになります。人身事故の加害者は民事責任だけでなく、刑事責任も負うからです。事故の経過を明らかにするため、事故後は警察官による実況見分に協力する必要があります。
警察庁は被害者の負担を軽減するため、刑事手続きに関する情報提供や、病院への付き添いなど、さまざまな被害者支援を行っています。事故後の精神的苦痛が大きい場合は、都道府県警察や交通安全活動推進センターの相談窓口を利用しましょう。
病院で診察・治療を受ける
人身事故に遭ったら、目立った外傷がなくても早めに病院を受診しましょう。その場では軽症だと感じても、後で重い怪我や障害が発覚するかもしれません。
事故後、時間が経ってから病院を受診すると、交通事故との因果関係を否定される可能性もあります。
医師の診断書があれば、軽い怪我や障害でも人身事故として警察に届け出ることが可能です。すみやかに医師による診察や治療を受けてください。
後遺障害等級の認定を受ける
事故後、治療を継続しても痛みやしびれなどの症状が消失しない場合や元通りの身体機能が回復しない場合は、後遺障害(後遺症)の認定を受ける余地があります。後遺障害の認定を受けると、治療に伴う入通院慰謝料(傷害慰謝料)に加えて、後遺障害慰謝料(後遺症慰謝料)を請求することが可能になります。
後遺障害の認定は、症状の程度に応じて第1級から第14級まで等級が分かれており、後遺障害等級に応じた補償を受けることができます。
損害賠償請求を進める
相手方への損害賠償請求は、治癒した状態又は治療を継続しても症状が変わらない状態(この状態を症状固定といいます。)になってから行います。
症状固定後、後遺障害がない場合は、症状固定日までの治療費や慰謝料、その期間の休業損害などを請求することが可能です。後遺障害がある場合は、後遺障害の認定を受けてから請求することになります。
後遺障害等級が認定された場合、後遺障害によって生じた逸失利益を請求できます。後遺障害の認定が見込まれる場合は、損害額の計算も複雑になりますので、交通事故問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
人身事故の際に請求できる示談金
人身事故の被害に遭ったら、相手方に損害賠償金を請求できます。損害賠償金は交通事故によって生じた損害に対する賠償金(積極損害、消極損害)と、肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料の2種類に分けることができます。
損害賠償金 | 主なもの |
---|---|
賠償金 | 治療費、通院交通費、車の修理費、休業損害、逸失利益など |
慰謝料 | 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料など |
損害賠償金
交通事故によって生じた損害に対する賠償金は、積極損害と消極損害の2つに分けることができます。。
積極損害とは、交通事故後の治療や対応に伴い、出捐を余儀なくされた金銭を指します。例えば入通院にかかった治療費や通院交通費、車の修理費などが積極損害の一例です。その他、積極損害には以下のようなものがあります。
- 付添費用
- 将来介護費
- 入院雑費
- 宿泊費
- 家屋改造費
- 治療用装具の代金
- 代車使用料など
一方、消極損害とは、交通事故によって本来得られたはずの利益が失われた場合に発生する損害です。消極損害の例として、交通事故の影響で働けない期間の収入(休業損害)や、後遺障害が原因で生じた収入の減少(逸失利益)などがあります。
死亡事故の場合、亡くなった方が生きていれば得られた将来の収入に相当する金額をご遺族(相続人)の方が死亡逸失利益として請求できます。
慰謝料
慰謝料とは、交通事故によって生じた肉体的・精神的苦痛に対する賠償です。慰謝料は、物損事故の場合には原則として請求できません。しかし、例えば、交通事故によって自宅が損壊し、生命の危機を感じたような場合、先祖を祭る墓石や仏壇が損壊した場合には、物損事故でも例外的に慰謝料請求が認められる余地があります。
人身事故の慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類に分けられます。
慰謝料 | 意味 |
---|---|
入通院慰謝料 | 怪我や障害の治療によって生じた精神的苦痛への賠償 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害(後遺症)によって生じた精神的苦痛への賠償 |
死亡慰謝料 | 交通事故によって亡くなった方や、ご遺族(相続人)の方が感じた精神的苦痛への賠償 |
示談交渉では、慰謝料の金額をめぐってトラブルに発展するケースがよくあります。慰謝料を増額したい、相手方から提示された金額に納得がいかない、という方は弁護士への相談をおすすめします。
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物損事故から人身事故への切り替えとは?流れを解説
人身事故ではなく物損事故として警察署に届け出た場合、警察による実況見分(事故の詳しい調査)が行われないため、加害者側と過失割合の争いになった際に不利になる可能性があります。
そのため、怪我をしているのに誤って物損事故として届け出てしまった方や事故の相手に頼まれて物損事故として届け出てしまった方は、以下の手順で人身事故への切り替えを行うことを検討されるのがよいと思います。
- 病院で診断書を作成してもらう
- 警察署に診断書を提出する
- 保険会社へ連絡する
病院で診断書を作成してもらう
1つ目のステップは、病院を受診し、医師に診断書を作成してもらうことです。
事故後、少しでも痛みやしびれなどの症状を感じたら、できるだけ早く病院に行きましょう。物損事故から人身事故へ切り替えるには、医師の診断書が必要です。
病院の受診が遅れると、交通事故と症状の因果関係を証明するのが難しくなります。診断書の作成に時間がかかる場合は、事故後に怪我をしたこと、病院を受診したことの2点を先に警察に伝えてください。
警察署に診断書を提出する
2つ目のステップは、警察署に診断書を提出し、人身事故扱いに変更してもらうことです。警察署で手続きをする前に、事前に連絡し訪問の予約をしておきましょう。
物損事故から人身事故へ切り替えると、警察による実況見分に協力する必要があります。自動車を運転中に事故に遭った場合は、事故車両の持ち込みが必要です。事故車両を修理に出してしまっていても、事故直後の写真や映像などが残っていれば代用できる可能性があります。
保険会社へ連絡する
3つ目のステップは、自分が契約している保険会社と、加害者が契約している保険会社の双方に連絡を入れることです。
任意保険に加入している場合は、怪我や後遺障害の大きさに応じて、保険金が支払われる可能性があります。
また加害者側の保険会社への連絡は、治療費などを請求する手続きを進める上で必要です。病院で治療を受ける前に、人身事故へ切り替えたことを必ず保険会社に伝えましょう。
人身事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
人身事故の被害者が抱えがちな悩みの一つが、加害者側の保険会社との示談交渉です。示談交渉でお悩みの方は弁護士に相談しましょう。
示談交渉を弁護士に依頼するメリットは3つあります。
- 保険会社との交渉を一任できる
- 慰謝料を含む賠償金を増額できる可能性もある
- 適切な過失割合で交渉してもらえる
保険会社との交渉を一任できる
1つ目のメリットは、保険会社との示談交渉を弁護士に一任できる点です。
弁護士に依頼しない場合、被害者の方がご自身で必要な書類を用意し、示談交渉に臨む必要があります。保険会社の提示する賠償額に納得がいかない場合も、ご自身で保険会社の担当者とやり取りを重ねなければなりません。
弁護士に相談すれば、事故後の対応から示談交渉まで、ワンストップで専門家に代行してもらうことが可能です。
慰謝料が増える可能性もある
2つ目のメリットは、慰謝料を含む賠償金を増額できる可能性がある点です。
人身事故の慰謝料は、最低限の保障を行う自賠責基準、保険会社が独自に設ける任意保険基準、過去の裁判例に基づく弁護士基準の3つの基準で金額が決まります。3つの基準のうち、慰謝料の金額が最も多くなるのは弁護士基準です。
示談交渉を弁護士に依頼すれば、この弁護士基準に基づいて慰謝料を増額できる可能性があります。
適切な過失割合で交渉してもらえる
3つ目のメリットは、適切な過失割合を主張できる点です。
交通事故の原因が、加害者側だけでなく被害者側にもある場合、過失割合に応じて損害賠償額が減額されます。この仕組みを過失相殺といいます。
保険会社から、加害者側に有利な過失割合を提示される場合がありますので、相手の言い分に納得がいかない場合は弁護士に相談しましょう。
まとめ
人身事故とは、負傷や死亡といった人への損害を伴う交通事故のことです。
人身事故の被害に遭った場合、加害者に対し治療費や休業損害、慰謝料などの損害賠償金を請求できます。物損事故扱いにしてしまうと、事後的に慰謝料などを請求するにあたって不利益が生じることもありますので、注意しなければなりません。
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【経歴】
2008年 | 弁護士登録 |
2010年 | 主に労働事件を扱う法律事務所に入所 |
2011年 | 刑事事件、労働事件について多数の実績をあげる |
2012年 | 琥珀法律事務所開設東村山市役所法律相談担当 |
2014年 | 青梅市役所法律相談担当 |
2015年 | 弁護士法人化 代表弁護士に就任 |
2022年 | 賃貸不動産経営管理士試験 合格 2級FP技能検定 合格 宅地建物取引士試験 合格 |
2024年 | 保育士試験 合格 (令和5年後期試験) 競売不動産取扱主任者試験 合格(2023年度試験) |
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